月に叢雲花に風 (ページ4)

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先輩が言っていた言葉を思い出していた。
"本人達と直接関わる事はないから"と肩甲骨の下辺りまである長い髪を束ねながら言っていたのだ。

だが今はどうだ。

「少し前にジョングギと日本に旅行に行って来たんだけど、その時食べたご飯がほんっとに美味しくて」

饒舌なジミンは思い出話を聞かせてくれている。
ただ兎に角もう下がる事は出来ない状態なのに、距離が近い。
香水の匂いだと判断出来る距離だ。

この状況が先輩の言っていた言葉とは違い過ぎて私はただ自動で頷くだけのロボットのよう。
ジョングクは私に目を向ける事はなくジミンに目を向けたり自分の靴を見たり、そして時々笑って

「ジミニヒョンも俺も食べ過ぎてたよね」

ジミンの思い出話にミニ情報を付け足した。

私は何を聞かされているのだろう。
ていうか私はどうするのが正しいのだろう。
そして消えた先輩はいつ戻って来るのだろう。

"休憩"だと誰かが言っていたのは空耳だったのか。
何故なら私だけずっと重要任務中の様な気分だからだ。
楽しそうな二人には申し訳ないが、あとどれくらいこのまま過ごせばいいのかと少し無理して買った最新型のスマートウォッチに目を落とす。

「メイク修正しますー！」

女性の声がスタジオ内に響き渡る。
私もジミンもジョングクもその声の方に視線を向けた事で当然、思い出話も止む事となる。

'戻らないと'そう言ったのはジミンでジョングクは既に体を声の方に向けている。
ジミンだけがまだ私の前にいてまた少し微笑むと

「これからよろしくお願いします」

そう言って頭を下げた後で'また'と殆ど聞こえない声で言った、気がする。
殆ど聞こえない声だったから私の勘違いの可能性もある。

壁に寄りかかったまま少しずつ遠下がるジョングクとジミンの後ろ姿をぼんやり見つめていると、ジョングクの手がジミンのお尻を掴んだのが見えた。

「おっ…！？」

口を押さえた時には既に遅く、私の声はスタジオ内に谺して色んな人の視線が集まる。
ジミンとジョングクには今の私がどう映っているのか。

こちらに振り返ってるジミンが肩を震わせているのが見えたから'죄송합니다…(チェソンハムニダ…)'と小さく言うのが精一杯だった。