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身体に何かが急にズシッと乗ったみたい。
飛行機の方向から隣のジョングクに顔を向けると'楽しかった?'ともう一度言う。
「、うん、勿論」
素っ気ない返事になった。
こんな時にジョングクの大きな目が珍しく真っ直ぐこっちに向いていたからだ。
それでも私もその目を逸らさず答えられただけ凄い。
「へぇ、良かったじゃん」
何度も来ているのだろう。
まるで自分の物の様にガーデンチェアに深くゆったりと身を任せているジョングクが小さく笑う。
「、映画見に行ったんだけど、私も見たいと思ってた映画だったから余計楽しかった」
「あーヒョン最近見たい映画あるって言ってたな」
「じゃあ、それだったんじゃないかな」
普通に話せている。
だから'それから'と私が続けた。
「何にもなかったよ、気をつけるような事」
単純に嘘を吐く為だけじゃない。
私自身に言い聞かせる為でもあった。
何もなかった事にしよう、と。
ジョングクの目を真っ直ぐに見て口から出た私のその声色は少しだけ震えていた。
ジョングクの目が私の声と同じ様に少しだけ震えた気がしたけれど、数秒の沈黙の後で
「そう、じゃあ良かったんじゃない」
と、コーヒーを飲んで微かに笑みを浮かべていたから私の嘘は通用した、と思う。
急に冷たい風が吹いて椿の花が落ちそうなくらい揺れてジョングクの前髪も舞い上がる。
凛々しい眉に光る銀色が目に入った。
「、ジミンさんもピアス開いてるけど、ジョングギは耳以外に口にも眉にも開いてるんだ」
その銀色が何の澱みもなく見えて羨ましくなって、そんな話題を口にしたのかもしれない。
すぐさま自分でも急に何を言ってるんだろうと思ったが、'うん'と頷いたジョングクは特に気にする素振りもなく。
「ヌナはピアス…ないんだ」
姿勢を起こすとそのまま身を乗り出して甲にまでタトゥーの入った手を私に伸ばし、耳に掛かる私の髪を退かした。
一瞬だけ耳がキンと冷たさを感じる。
瞬間的に昨日のジミンと重なって心臓が無駄に早鐘を打った。
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作者名:かむ | 作成日時:2024年2月14日 10時