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「ちょっと風に当たって来ます」
'大丈夫？'とまだ心配そうな表情の先輩にそう告げてアウターを羽織って携帯だけを手に部署を出た。
仕事が捗らないのはいつもの事だがいつにも増して捗らないのだ。
風に当たったからといってどうこうなる物じゃないかもしれないけれど、何もしないよりはマシな気がして。
会社の屋上には洒落た屋上庭園があって割と寛げる様になっている。
外からは見えない造りになっていて流石だなと思ったが使う機会は今までなかった。
こんな時に初めてその機会が訪れるとは。
人がそれなりにいると思って来たのだが、曇り空のせいか時間帯のせいか屋上庭園へのドアを開けた所からは人影は見えない。
綺麗に剪定されている木々達や寒空の下でも真っ赤に咲いている椿の花とか。
そんなのを目にしながら歩いて、ゆったりと座れそうな陽射しの下にある深緑のガーデンチェアに腰を下ろしたがやっぱり私以外に人はいないようだった。
誰もいなくて良かった。
少し肌寒いが耐えられない程じゃない。
むしろ頭を冷やすには丁度良いとさえ思った。
今年買ったばかりの黒いムスタンは欲しくて予約した買ったのだが思ったより暖かくて正解だった。
小さく轟音が聞こえて上空遥か上で飛行機が飛んでいる。
「仕事サボってる」
何も考えず飛行機を目で追っていた私の前にあるガーデンチェアと同じ色のテーブルに蓋付きのコーヒーカップが置かれた。
「…そうだよ、サボってる」
私の目の前のコーヒーカップと同じ物を持つジョングクが'否定しないんだ'と言って白い歯をニッと見せて笑った。
こんな時によりによってジョングクが来るなんて。
社内の人間なら誰でも出入り自由なのだからおかしい事ではないのだけれど、この会社に所属している何百人といる人の中から"よりによって"とは思う。
コーヒーカップに手をつけず飛行機が見えなくなった方向に目を向けたままでいた。
「昨日楽しかった？」
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作者名：かむ
| 作成日時：2024年2月14日 10時
