月に叢雲花に風 (ページ27)

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全てはほんの一瞬の出来事だった。

油断とかそんなのは問題じゃない。
ただ私がジミンを見てジミンも私を見て、その直後にジミンが身体を私の方に傾けたと思った時にはもう。
ジミンの表情が見えないかわりに唇が触れていた。

私の後頭部に添えられたジミンの手がゆっくり髪を撫でて離れた後で唇同士も離れた。

開いたままだった私の目は少し距離の空いたジミンの目と交わった。

さっきと違ってスクリーンはチカチカと明るさを頻繁に変えてスピーカーからも大きな音。
この部屋事態が揺れてるように感じる。

一連の一瞬の出来事を終えたジミンは自分の鼻を軽く指で擦って

「예뻐서(イエッポソ)(可愛くて)」

と、声には出さず言うと微笑んだ。
そして私に何を求めるでもなく、今し方私の髪を撫でた手で炭酸飲料の入ったカップを持ったままスクリーンに目を向けた。
私もスクリーンに目を向ける。

集中などもう到底出来るはずがない。
結局最後まで考えていた事はたった一つ。

"私はジミンにキスをされたのか"

これだけだった。

意識があるようでないまま映画が終わった。
見たい映画だったのに結局誰が犯人だったのか分からず仕舞い。

場内の灯りが付いてゆっくりと明るさを増す中、隣のジミンは椅子に座ったままで思い切り伸びをした。

「映画館で見る映画って最高だけど、長時間椅子に座ってるからそれが結構しんどいよね」

首まで回しながらいつもの調子。
ジミンの首からバキッと鈍い音がした。

まるで普通のジミン。
映画を見る前と何も変わらない。
私のあれは幻覚だった？
そう思えてならない程。

ストーリーではなく映画館の感想を述べたジミンが私の名前を呼んだけども私はまだ口を開けずにいた。
だって、あれは何だったのって。
夢か現実か。
幻覚か。妄想か。

思い浮かぶ言葉は口に出来ないままジミンの目だけを追った。

照明がもう完全に明るさを取り戻した時、ジミンの椅子から軋んだ音がして

「もう一回、しようか」

私の心臓が現実だと告げる。