月に叢雲花に風 (ページ26)

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偶然テレビで流れていた予告を見て久しぶりに観たいなと思った映画が今まさに目の前の大スクリーンで上映されているものだ。
それに気づいた時は声には出さなかったものの'あぁ'と小さく息だけ吐いて軽く頷きもした。

来て良かった。
色々と。
こんな贅沢な状態で映画をじっくり観れる事もそうないだろうし。

視界の端で感じるジミンは頬杖をついていて時々ポップコーンに手を伸ばして食べてを繰り返していた。
長い足が組まれていて黒いブーツが良く映える。

何だか少し気になって隣に目を向けるとスクリーンの明るさに合わせてジミンの横顔が様々な色に変わる。
しっかりと骨の形が分かる顎のラインに影が落ちてもっとハッキリ見える気がした。

頬杖をついている方の手の人差し指を軽く唇に当てて真剣な眼差しをスクリーンに真っ直ぐに向けている。
ニコニコと目を細めて微笑むジミンとはまるで違う表情。

「A？」

ジミンに呼ばれて我に返った。
完全に見惚れていた。

「どうかした？」

ゆったり座っていた姿勢を正したジミンが心配そうにしてて罪悪感。
でも"見惚れていました"なんて言えるはずない。

「何でもない、気にしないで」

'ごめん'と付け加えた。
何に対して"ごめん"なのかと問われるなら真剣に映画に集中していたジミンの妨げになってしまった事。
と、映画よりジミンに見惚れてしまっていた事だ。

ジミンからスクリーンへと顔の向きを正す。
一体何を見に来たのか。

自分への戒めを心の中で繰り返していた時、コツンと小さく音がして靴が何かに当たった。
ジミンの黒いブーツだ。
私のパンプスの爪先にそのブーツの爪先がまたコツンと。

私の足が邪魔な位置にあるのかと思って少しずらしてみたが、すぐに追いかけてくる黒いブーツ。
違和感。
これは一体－－－

「A」

丁度静かなシーンでスクリーンの明るさもぐっと落ちた。
ジミンが私の名前を呼んだのはハッキリ聞こえたけれど、ジミンの表情までは分からなかった。

でも分からなかったのは明るさのせいだけじゃない。
ジミンが私にキスをして顔が見えなかったからだ。