月に叢雲花に風 (ページ25)

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「映画館」

自然とそう呟く私の目の前にはその通り映画館だ。

「貸し切りにしたから大丈夫」

我が耳を疑うとはこの事だ。
人目を気にしないのかとかそんな意味で映画館と呟いてしまったわけではない。

さっきの車の運転のように慣れた口調で規格外の事を言い放ったジミンは言葉を失くしてる私を見て

「映画館やだった？やでも俺の見たい映画に付き合ってくれない？」

と、まるで見当違いな質問をあざとく言ってのける。

もう寒くもないし慌てる必要もなさそうな状況でも未だ左手はジミンに繋がれたまま。
その上'ダメ？'と首を傾げて上目遣いで言われてしまっては
私も映画館を貸し切った件について触れられなくなった。

私より背が高いはずでよく見たら肩幅とか腕だってしっかりしてるのに、ジミンのその表情は小柄な美人を見てる錯覚さえ覚える。

「…映画くらいいつでも付き合うよ」

熱視線に耐えられず目を逸らした私の言葉にジミンは'고마워(コマウォ)(ありがとう)'なんて。
手を離す気配もないどころか、そのまま手を引いて自分の隣に私を置く。

このジミンの距離の近さは何なんだろう。

朱色の絨毯が敷かれた閑散としたロビーには最低限の店員だけが配置されているのか、カウンター内にも二人しか見えない。
こんな映画館見た事ない。

でもジミンが来るまでは通常通り営業していたようで、ケースの中にはそれなりに食べる物のストックが見受けられた。

大きめのポップコーンとホットドッグを選んだジミンと炭酸飲料が二つ。
ジミンがそれが持つ為にやっと私の手を解放した。

「手繋がないけど、ちゃんとついて来てよ」

「えぇ？子供じゃないんだから、ちゃんとついて行くよ勿論！」

'そっか'ってジミンは笑ったけど、私の事子供扱いしてた上でのこれまでの行動？と思ったら一気に肩の力が抜けた。
ジミンの距離の近さの謎が予期せぬタイミングで解けた。

こんな状態で気をつける事態が起きるわけない。
私の自信は確信に変わったところで、二人だけの為の映画上映が始まった。