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落ち着かない。
そりゃあそうなんだけど。
「今日雨降らなくて良かったよね、今朝天気予報見た時は雨マークだったんだよ」
「そう…だったんだ、じゃあ、降らなくて良かった。私、傘持ってないし」
「俺も。雨マーク見たのに持って来なかった」
慣れた手つきでほぼ右手だけでハンドルを操作するジミンが軽やかに笑うと目の下辺りまでの長さの前髪がサラサラと揺れた。
車内が暖かいからか着ているパーカーの袖を捲っているジミンの腕は暗い所でも白いと分かる。
しかもキメの細かい肌。
私は持ち合わせていない物でせめて夏までは腕を出すまいと訳の分からない決意をした。
落ち着かないなと思いながら車に乗っていたはずなのに、ジミンからの尽きる事のない話に答えてるうちにそんな事を考えていた事自体忘れた。
信号で止まる度、フロントガラスだけに向けられていたジミンの顔が丸ごと私の方を向いて。
その時だけ少し緊張が蘇った。
どこに向かっているのか。
本当にご飯を食べに行くのか。
それどころか今の正確な時間も知らずにただジミンとのこの空間を楽しんでいる自分がいた。
だからハンドルを左に切って地下に下っていく時、少し残念だと思ってしまった。
もう少し乗っていても良かった、と。
「到着」
エンジンを切ったジミンの言葉だ。
颯爽と車から降りると助手席のドアを開けたジミンはまだ上着を着ていない状態。
「ドアくらい自分で開けられるのに」
地下とはいえ車から降りれば車内よりは断然寒い。
「さっきエスコートしますよって言ったじゃん」
また。
唇を尖らせてわざと不貞腐れた様な表情で私を見る。
そしてその言葉通りドアを閉める事もさせてくれなかったジミンが後部座席のドアを開けてやっと自分のダウンを着る。
切ったばかりなのか白い頸が寒そうだな、なんて見てたのにジミンがパーカーのフードを被って遮られる。
「寒いから早く行こ」
その後で準備が整ったジミンの手が一瞬の躊躇もなく私の手を握った。
縮まった距離に香るのはジミンの香水。
何処かでけたたましいクラクションの音が鳴ったけれど、ジミンの足音と'楽しいね'という低く呟く様な声の方がずっと大きく聞こえた。
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作者名：かむ
| 作成日時：2024年2月14日 10時
