月に叢雲花に風 (ページ23)

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先輩もジョングクも気をつけてって言う割には強めに止めたりしない。
例えば"誘われても出かけるな"とか"連絡先を交換するな"とかそういう具体的なやつ。
連絡先は交換してないけど。

それにさっきジョングクに言ったように気をつける様な事が起きたりしないって。
そう強く思う。
でもこれと言って誰かを信じ込ませる程の根拠がない事も事実だ。

だからジョングクの詰め寄りに返せなかったのだ。

でもだからと言って"分かるでしょ"と言われる程の事があるかって頭の中で想像しようとすると

「…いや…ないでしょ、ジミニと、そんな…」

想像の限界が割と早い段階で来てモザイクとかでもなく、もう何にも想像が出来なくなる。
一階のロビーの観葉植物の隣で私の独り言は誰に向けられたものなのか。
紛れもなく私自身だ。

自分があまりにも馬鹿みたいに思えて、鮮やかな緑色の観葉植物に"ごめん"と心の中で言って出入り口へ。

「Aー」

自動ドアが開いたすぐ目の前だ。
"誰の目も気にしない"と言わんばかりに堂々と横付けされた車の窓から肘を掛けて身を乗り出しているジミンがいた。
高級外車。

「さっきジョングギから電話が来てさぁ、Aと会ったって。だからもうすぐ出てくると思って待ってたんだよね」

今日も"ご機嫌"を具現化したような笑顔でそう言ったジミンは続けて'お疲れ様'と。

"ジョングクが電話した"
だから…気をつけてって言うくせに言葉と行動が合ってないんだってば。

「、そうだったんだ。わざわざありがとう」

思い出し少しカチンとしたものの目の前のジミンには口角をあげて自然に振る舞う。
私がそうしたらジミンは笑顔のままで車から降りて

「ちゃんとエスコートしますよ？」

そう言って良い店のウェイターの様なお辞儀をすると私に手を差し出す。
その手を受け入れるかどうか勿論迷ったが、敬語云々の時の様にまたやんやと言われそうで

「よろしくお願いします」

戸惑いつつもそっと手を重ねると'任せて'と微笑んだジミンが私の手を軽く握った。
冬の空気の中私の手だけがやたら熱い。