月に叢雲花に風 (ページ22)

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"知ってるんだ"
と思っただけで口には出さなかった。
ただ無言のまま一階に着いてエレベーターのドアが開いて

「降りないの？」

ジョングクにそう言われて少し慌てて降りた。

知ってても不思議はない。
初見でも仲の良さが窺える二人の様子を見てたら勿論そんな話しもするだろうなと誰だって思う。

随分薄着のジョングクが'あのさぁ'と立ち止まる。

「もう言ったからね、気をつけてって、この言葉の意味分かるでしょ？」

振り返る形になった私はジョングクではなく自分の履き慣れたパンプスの爪先を見ていて。

「、分かるけど分かんない」

本当にそうだからそう答えた。

「だって私、ジミンさんとどうとかジョングギが言う気をつける様な事はないって思ってるから」

溜息が聞こえたから矢継ぎ早に言葉を繋ぐとジョングクはまた溜息を吐いた。
まるでジミンみたいに前髪をかき上げて唇を少し噛む。

「なんでないと思うの？今こうして俺と話してる事だってこの会社に入る前はないと思ってたんじゃないの？想像もしてなかったんじゃないの？」

畳み掛けるようなジョングクの言葉は"確かに"と納得してしまいそうな物で、容易く私は押し黙った。
ジョングクの向こう側にはさっき降りたばかりのエレベーターのドアがあって私の口と同じ様に閉じたまま。

"でも"とか"だって"で始まる言葉しか思い浮かばなくて口を開くのを躊躇う。
そんな私を見兼ねたようにジョングクが'俺もだけど'なんて言うから'どういう事？'と私が口を開くきっかけとなった。

「いや、別に」

なのにそう曖昧な言葉と私じゃないどこかを見てクスクスと小さく笑ったジョングク。

「잘 갔다와(チャルカッタワ)(行ってらっしゃい)」

その笑みを微かに残したままそう言って背を向けて。
エレベーターの横に位置する下りの階段へと姿を消した。
気をつけてと言ったり行ってらっしゃいと言ったり矛盾している。