月に叢雲花に風 (ページ18)

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「結婚するんですか？」

先輩とその他二人の計四人でのランチ中だ。
先輩が一番上で私が一番下で、真ん中の二人は同期。
女四人も集まれば話題は自然と恋愛が多くなる。

同期二人の片方が先輩の指輪を指差して聞いたそれは私も気になっていた事で。

「私も気になってました、ずっと聞けなかったんですけど」

キムチチゲを口に入れようと持っていたスプーンを一度置いて身を乗り出して便乗した。

先輩は少し照れた様に笑いながらも'どうかなぁ'と満更でもない様子で順調なんだと感じ取れた。

「もう付き合って長いから、近い将来はそうなるかもしれないけど、まぁお互い仕事も忙しいからね」

箸もこの話題についても止めるつもりがないようで、キムチを上品に口に入れながら自身の状況を話し続ける。
そんな先輩の話しに興味しかない。
再度持ったスプーンをただ持ったままで聞く態勢だ。

仕事中にはこんな詳しくプライベートな事まで話してる時間は当然ないし、私一人では踏み込み難い話題なのもある。
別段まずい内容でないが私の勇気や問題だ。

「彼氏さんはお仕事何されてるんですか？」

チャンスとばかりに質問する。

「あ、言ってなかったっけ？彼氏も私達と同じ芸能関係の事務所で働いてるの」

'同業者かー'と言ったのは私ではなく結婚の話を持ち出した方だった。

同業者、なるほど。
そうなると向こうも先輩と同じ様にかなり忙しい毎日を送ってそうだな、なんて食べるのか食べないのかハッキリしないチゲをスプーンで突く。

「まさか、本当は同じ社内にいたりしませんよね？」

そのタイミングでもう片方が凄いポイントを突くからキムチチゲの事など一気にどうでもよくなった。
先輩の反応を待っていると白い歯を見せてわははと豪快に笑った後で

「そんな訳ないじゃん！同じ社内で恋愛なんかしたら、仕事やってられないって」

と格言にも似た言葉が出てきて、先輩を除いた三人のゴシップはそこでお開きとなった。

同じ社内で恋愛なんかしたら仕事なんかやってられない、か。
すっかり冷め切ったキムチチゲの上澄みを見ながら先輩の言葉を反芻した後で、頭の片隅にあるジミンを思い出していた。