月に叢雲花に風 (ページ17)

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翌日、目が覚めて一番最初に夢だったのかと思ったのだけれど、家を出る直前に巻いたマフラーからほんの僅かだけ知らない香りが漂って現実だと認識した。

いや、もう知らない香りとは言えない。
長い前髪を風に靡かせながら微笑むジミンをすぐ思い浮かべたのだから。

帰りも私だけが別のタクシーに乗って帰る事になって、手配から料金までジミンが全てやってくれて。
贅沢が過ぎて恐縮した結果また"ジミンさん"と呼んでしまい、'에이(エイ)(また)'と怪訝な顔を返された帰り際。

タクシーの窓を開けてジミンと話していた後ろからフードを被ったジョングクがヌッと前に出てきて

「俺の名前は平気で呼ぶのにおかしいじゃん」

と、余計な事を言う。
だけに止まらず、指までタトゥーで装飾された右手で私の頬を掴んだ挙句グリグリと手で－

「ちょっ…と！」

思わず手首を両手で掴んで振り払う。
私の両手を軽々と振り払ったジョングクの手がさっさと窓の向こう側に引っ込んだ。
力では勝てないと言われてるみたいだった。

一連のやり取りを見ていたジミンはジョングクに'こんな事やっちゃダメじゃん'と小言を漏らしていたがジョングクはそれを軽くあしらってアウターのポケットに両手を突っ込むと

「이제 가자(イジェカジャ)(もう行こう)」

と、私ではなくジミンを見て言った。

あーはいはい
つまり私にも早く行け、と。
私を見ないどころかすっかり背を向けてしまったジョングクとそんなジョングクにも笑顔で'分かったよ'と答えるジミンに

「じゃあ、おやすみなさい」

それだけ言ってタクシーの窓を閉めた。
窓が閉まる間際にジミンが'おやすみ'と言っていたのは聞こえたけれど、ジョングクは私に目もくれなかった。

こうやってジミンとジョングクを交互にふと思い出しては仕事の手が止まっている事に気付いて、こめかみ辺りを指でぐりぐりと押してみる。
集中力を高めるツボ、かどうかは知らないけれど。