16 ページ16
会計は全部ジミンが払った。
払おうとした時にはもう既に会計が済んでいるというよく聞くスマートな対応を受けたのもジミンが初めてだ。
外に出るとアルコールの熱には丁度良く感じる冷たい冬の風。
頬に当たって髪の間をすり抜けていく。
「私払おうと思ってたんですけど…」
店内から出た直後にジミンの背中に言うと、結構な量を飲んだはずなのに全く顔色の変わってないジミンが振り向いて、首をゆっくり二回横に振って見せた。
「お金はいらないから、その分一つお願い事聞いてくれる？」
またサングラスを掛けてしまったジミンの目は見えない。
ただ少し大袈裟に首を傾げて"お願い"のポーズなのはよく分かった。
「私で出来る事…なら？」
少し強めに風が吹いて私のマフラーの形が崩れて風に舞う。
ジミンの口が'あ'と呟いたとほぼ当時に、そのマフラーを掴むとぐるりと巻き付けた。
焼肉の匂いが立ち込めていた店内にいたはずなのに、ジミンからは別の甘い香りがした。
寒くないのかと思う程開いているダウンコートの襟からは相変わらず白い首が出ていて、何となく甘い香りはそこからしている様な気がした。
「ジ、ミ、ナ」
マフラーを持ったままのジミンが自身の名前を一文字ずつ正確に発音して見せた。
何故今更？と思う私にジミンが含んだ様に笑う。
「ジミナって言ってみてって。それがお願い事」
'
ジミン相手だと私は簡単に浮ついてしまう。
喉を鳴らして息を飲み込んだけれどマフラーのおかげで見られずに済んだ。
'言うまでマフラー離さない'と言われてしまって小さく息を吐くと白く浮かんですぐ空中に消えた。
「…ジミ、ナ」
人の名前を呼ぶだけなのにこんな緊張する事があるのだろうか。
外国人的な発音になってしまったのにジミンはマフラーからゆっくり手を離すと
「今日からそうやって呼んでね」
と綺麗に揃った白い歯を覗かせて笑った。
ジョングクの存在を忘れていた訳じゃないが、ジミンだけに集中していたのは明らかだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 325人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かむ
| 作成日時：2024年2月14日 10時
