凡才なので。2【ハイキュー】

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「何で手を抜くんすか。」



俺がそう聞いた時、紕波さんはバツが悪そうに俺から目を逸らした。

その沈黙が、“あの時の天才はもういない”と俺に証明しているみたいで、頭を殴られたような感覚になった。

………あぁ、やっぱりこの人、あの時とは違うんだ。

そう現実を突きつけられたように感じ、
俺の中の“紕波十和”という理想の偶像が音無く崩れ去った。


今思えばあれは、

“憧れのままのあの人であって欲しい”

という俺のエゴだったのかもしれないが、当時はそんなこと気にする余裕は無かった。



『………何のこと？』
「手、抜いてますよね、先輩。
あの時のサーブ、よそ見してなければ取れてましたよね。」



ため息をついていた。

首を振ることも無ければ、
取り繕ってぎこちない笑みを浮かべる様子も無い。

それがまた、俺の中の僅かな偶像の欠片を踏みにじっているように感じた。



『……君、1年？優秀なんだね。』
「1年の影山飛雄です。」
『影山……あぁ、道理で。』



俺の名を聞いた紕波さんは、なんとも思っていないかのような、無機質な表情を浮かべた。

皮肉にも、あのサーブを打った時の感情が読めない顔とよく似ていた。



『……手、抜いてるって言ったね。
その通り。別に隠すつもりもないし。』



何かを隠す素振りは見受けられないから、
その言葉が本心からの言葉だとすんなり理解した。

理解したい訳では無いが、
理解できてしまったのだ。

だからか、腹の底からふつふつと怒りを感じた。



「何で本気にならないんすか。」
『凡才なので。本気を出しても特に何もできないからだよ。』



アンタは凡才なんかじゃない。

そう叫びたかった。でも、目の前のその人の諦めたような失望したかのような瞳を見たら、そんなこと言えなかった。

何かあったんだと思わざるを得なかった。

いや、何があったのかは知る由も無いが。



「………舐めてんじゃねぇよ。何のためにアンタは北一のバレー部に……」



反射的に口から出た言葉は励ましでも問い掛けでもない。

それは、本当にただの罵声でしかなかった。

………違う、こんな事を伝えたいんじゃない。

もっと言うべきことがあるだろ。



『成り行き。僕、才能無いから。じゃね。』



去っていく背中が酷く小さいものに見えた。







＿＿＿＿俺は、ただ。

もう一度あの人の本気のプレーをこの目で見たかっただけだった。


失望、落胆。興味索然と、俺はその人の後ろ姿をただ見つめていた。

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