あの懐かしい聲 ページ10
「ア、湊瀬先輩ジャないデスか。ドーモ、お久しぶリッすネ。」
小銭を入れると自動販売機のボタンが緑に光り、ピッという機械音が鳴った。
それと共に、いつしかどこかで聞いたような特徴的な低音が聞こえ、輪廻は反射的に振り返る。
『………赫谷融佑。』
「ヤダなァ、この前ハ“融佑くん”ッテ呼んでタじゃナイですカ。」
この前。
それを聞いて輪廻の頭に蘇ったのは、少し前の出来事。
『……あぁ、人の墓にズカズカ入り込んでた時の事ね。』
………呪詛師をやめて間もなく、融佑が輪廻を訪ねてきた時のことだった。
確かにあの時輪廻は、融佑のことを君付けで呼んでいた。
年下や同い年の時はいつもそうやって人を呼んでいたから、それが一番抵抗が無かったのだ。
だが今となってはどうだ。
だいぶ久しぶりに会った今、そういう風に呼ぶほど輪廻の肝は座っていなかった。
ましてや他人にすら感じ始めていた。
「人聞きガ悪いッスね。」
『しょうがないでしょ、事実なんだから。』
「事実ッテ………、先輩もしカしテ馬鹿真面目ですカ?」
『………馬鹿真面目が呪詛師やる?』
「やんナイっすネ。」
輪廻は指を、置いていたコーラのボタンから缶コーヒーのボタンに移した。
押すと同時に、ガコンという物が落ちる音がした。
そして、落ちてきた缶コーヒーを手に取り、背後の融佑に差し出す。
『はい、コーヒー飲める?』
「イヤ、先輩それタブン買ウ前ニ言うヤツっすヨ。
差し出シなガラそれハ“飲め”って言ってルようニしか聞こエナイっす。」
『うるさいな、飲めるか飲めないかって聞いてんの。』
「ハイハイ、飲めマス飲めマス。」
融佑が、輪廻の差し出したそれを呆れた顔で面倒くさそうに受け取った。
輪廻はもう一度自販機に向き、もう1つ、缶のコーラを買った。
『融佑くんはどうしたの?』
「イヤ、別ニ用は無いデス。」
『ふーん。』
「ジャ、オレ帰りマス。通りかカッただけダシ、用無いんデ。
あァ、あとコーヒーあざス。」
融佑は受け取った缶コーヒーの礼だけ述べ、浅くお辞儀をして去ろうとする。
輪廻は何も言わない。
無愛想な先輩だ、と融佑が感じた時、輪廻がパッと振り返った。
『………融佑くん、ちょっと待って。』
融佑が頭にクエスチョンマークを浮かべる。
『ちょっと、お話してかない?』
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作者名:ほし | 作成日時:2024年2月14日 22時