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「…………ただいま。」



2人の親の心配をかけてはいけないと、あの後彼らはひとしきり食べて潔く解散した。

午後7時。夏だからかまだ外は薄暗い。

ひぐらしが騒がしく、それでも趣を持って外で鳴いていた。



「………って、誰もいないか。」



暗い家の中に向けて言った“ただいま”に、“おかえり”は返ってこなかった。

いつものことか、と自嘲しながら輪廻は靴を脱ぐ。


輪廻の親は、滅多に家に帰ってこない。

恐らく、彼の両親は、いわゆる“裏社会”で働いていた。

もうこの生活にも随分慣れたものだ。

いつ帰ってきているのかは分からず、たまに、冷蔵庫に作り置きの料理が入っていたり、書き置きがあったりする。

だが、朝ようやくそれを見つけた頃には、両親はもう家から出ていることがほとんどだ。


かれこれ、数年以上顔を合わせていない。

もう寂しいとも何とも思っていなかった。
………またか、なんて思うことが毎日だった。


毎月通帳に振り込まれる膨大な金、

たまに冷蔵庫に入っている作り置きの料理、

机に置かれた書き置き。


それが、両親の生存を証明する唯一のものだった。



「…………やっぱりか。」



____だが、その“生存証明”が最近絶えつつあった。



無い(・・)。」



作り置きの料理も、書き置きも無い。

そんな日々が3ヶ月続いていた。

でもそれだけなら、忙しいだけか、と飲み込める節もあった。


だが。


口座にいつまでたっても金が振り込まれない。


それだけは、見逃せなかった。



「おかしいな………やっぱり…………、」



今まで、何があってもその仕送りが耐えることは無かった。

毎回、1度に振り込まれるにはあまりに膨大な金額なので、数ヶ月耐えたくらいでは困りもしない。

だが、違和感はあった。


…………寂しくは無いにしろ、まがいなりにも自らを養ってくれている血の繋がった両親だ。

情くらいはあった。

金がやたらとかかる私立中学に入学できたのも、

今まで生活してこれたのも、

全て両親のお陰であることくらい、十分理解していた。



「…………何か、あったんだ。」






心臓はバクバクと跳ねていた。

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作者名:ほし | 作成日時:2024年2月14日 22時

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