羊が灰に染まった日 ページ3
「輪廻！お疲れ、今日も調子良かったな！」
「な、さっすが天才。」
部活帰りの日の暮れかかる夕方だった。
後ろの友人2人は、輪廻の肩に片腕を置いてその小さな背中に寄り掛かる。
輪廻は何ともないような顔をして1つ溜息をつき、置かれた腕を優しく退けた。
「別に………、それほどじゃないよ。君らだって上手じゃん。」
「いやー、流石にサッカー歴2年でセンターフォワードの輪廻サマには頭が上がらないっすわ〜」
「な！俺なんて6年目なのに輪廻に負けてんだぜ？」
「………そんなことないよ、僕はただ攻めるだけ。
フィジカルが弱いから、守りに関しては雑魚だよ。」
中高一貫誠黎学園。
宮城県に位置する中高一貫の私立校、全国常連の強豪サッカー部を有する学園である。
輪廻は、サッカー歴僅か2年の初心者でありながら、そのエースを担っていた。
「でもでも、大会の得点王は毎回輪廻っしょ？
シュートセンスもスピードも優秀なんだから、謙遜しなくていいのに。」
「………してない。そもそもそんなに僕を褒めて何がしたいの？
なんか奢れってこと？」
輪廻がそう言うと、他の2人は満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。
「さっすが輪廻ー！わかってるぅー！」
「俺今月買いたいもん買ったから金欠でさぁー………、
………金の
“金の坩堝”。
そう言われ、輪廻はあからさまに不機嫌そうな顔で2人を睨みつけた。
だが実際それは事実。確かに輪廻の貯金額は桁が違っていた。
「はぁ………人を金ヅルとしか思ってないの？
まぁいいよ。何がいい？今から食べに行こ。」
「まさか！輪廻くんは僕達の大切な大切な友達だよ！」
「そうそう！」
「はいはい、わかったわかった。さっさと行くよ。」
ご機嫌そうに輪廻と肩を組み出す2人。
2人は、この金持ちばかりの私立校では珍しい“一般的な金銭感覚を持った人間”だった。
故に一般家庭出身で、小遣いは並の中学生程度だった。
こうして輪廻を煽ててたかることも少なくない。
輪廻もそれを嫌な顔ひとつすることなく容認していた。
「今日は肉食べに行こ！焼肉！」
「胃もたれする………」
「輪廻大きくなれないぞー」
「うるさい。」
むしろ、この日常に満足していた。
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作者名：ほし | 作成日時：2024年2月14日 22時
