ナイモノネダリ (ページ5)

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どこまで来たか分からない。

通り雨だと思ったはずの雨も止むことが無く相変わらず土砂降りのままだ。

春に新調して数ヶ月ですっかり着古したスーツも、毎日履いてるせいで既にボロボロなパンプスも、全てびしょびしょで。

カバンもその中身も水浸しになっていた。

雨に濡れたスーツの重さでふと我に返り、カバンの中のスマホを確認してみたけれど、雨でしっかり壊れていて。

安さを重視して防水機能がない型落ちの機種を買った過去の自分を恨んだ。

知らない土地で。家への帰り道もわからない。

気づいてしまった日常の異常さ。

だけど逃げきれない自分の宿命に失望してその場にしゃがみこんだ。

誰もいない、誰も見ていない。

降りしきる雨に打たれながら、声を上げて泣いた。

朝ちゃんとしたはずのメイクが崩れて妖怪のようになっていたとしてもどうでもよかった。

もういっそ、通りかかった人が警察に通報してくれたらいいのに、そしたら私は安全な場所へ行けるのに。

そんな馬鹿なことを考えながらただひたすらに泣いていた。

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「…大丈夫ですか？」

その声が聞こえるまでは。

急に私の頭上だけ雨が止んで、不思議に思い声のした方に顔を向けると、大学生くらいの男の子が私に傘を傾けながらしゃがんでいて。

「おねえさん、大丈夫？」

そう言ってほんとに心配そうな顔をしていた。

『…だいっじょうぶに見えっる？』

途切れ途切れで出た声はカスカスで、ほとんど声になっていなかった。

「んー、見えないかな。」

たけど、私のそんなかぼそい声を1回で聞き取った彼は私の腕を引っ張った。

「立てる？」

『…むりかも。』

すっかり力の抜けてしまった脚。

彼に引っ張れた腕の力で持ち上げようとしてもビクともしなくて。

それが身体的な原因なのか精神的な原因なのかは分からなかったけれど。

「じゃあ、」

そう呟いた彼は少し考え込んだあと、私の目の前で背中を向けてしゃがみこんだ。

「乗って？」

『え？』

「だって歩けないんでしょ？」

『…そうだけどっ。わたし濡れてるし、君が濡れちゃう…。』

びしょびしょの自分の身体を見て、そんなことは出来ない、と彼の背中を押すけれど、彼は「じゃあここで死ぬつもり？」なんて怖いことを言う。

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