ナイモノネダリ (ページ37)

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『…ごめん、』

光成に謝って通知を確認すれば、予想通りの人からで。

その通知が見えたのか、彼はさっきよりも目の光を失った。

「…Aさんは、俺じゃない人を選んだんだ？俺はAさんを選んだのに、」

そんなことを言われたって、

『あのね、光成、』

聞きたくないというアピールなのか、視線を逸らす彼にハッキリと告げる。

『明日結婚するんだ。』

予想外の答えだったのか、一瞬驚いた表情をした彼の瞳から、大粒の涙が流れた。

『…でもね、私バカなんだ。明日他の人とドレス着て神に誓うのに、ずっと違う人のこと考えてた。』

もうどうにでもなれという気持ちだった。

頭の中にまだ明日私は花嫁だから泣いたら顔がパンパンになるって自覚があるのに、体は言うことを聞かない。

ぐちゃぐちゃという効果音がピッタリなくらい、泣いていた。

『…彼は、誠実で、仕事もちゃんとしてて、未来が明るいって分かってて、私のことをすごく大事にしてくれてるってわかってるはずなのに、』

鳴り止まない着信音が、私の叫びを加速させた。

『、わかってるはずなのに、忘れられなくて、ずっと私の心の中にいて、』

少しだけ背伸びをして、光成の涙を拭ってあげる。

彼の目はじっと私の目だけを見つめていた。

『…ピーターパン、わたしを連れ去って？』

これでいいのかなんて自分でも分からない。

だけど、今日1日ずっとこればっかり考えていた。

ピーターパンが迎えに来たらいいのにって。

「…その顔じゃ結婚式出られないもんね？」

『ひど、』

「そのためにここに来たんでしょ？普通、花嫁さんは前日に深酒なんかしないから、」

ああ、彼にはやっぱり全て見透かされてしまう。

あの初めて交わったあの日のようにふってきた唇は、ほんのりアルコールの味がして、彼が大人になったことを実感させられた。

「…行こう、Aさん。」

差し出された手を握れば、もう後戻りはできない。

鳴り止まないスマホの電源を落として、彼の手をとる。

『お酒が飲めるくらいもう大人だから、ネバーランドへは帰れないね、』

「…俺はAさんの永遠のピーターパンだから、帰れるよ、ネバーランド。」

彼はそう言うと、まるで空を飛ぶかのように軽い足取りで街中を駆け抜けた。

end

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