ナイモノネダリ (ページ34)

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「さっきの話、本当なの？」

帰り道、上司が聞いてくるものだから、どうしようかと考えた。

あんなの嘘ですよって言えばいいのかもしれないけど、嘘だったとしたら彼女があの場でなぜそんな嘘を着く必要があったのか、という話になる。

これからいい関係を築きたい会社との初見で、わざわざあんな意味深な嘘をつく意味はない。

『…ドラブルを起こして居づらくなっちゃって、前の会社を辞めたのは事実ですけど、クビにされた訳じゃなくて自分で退職しましたし、犯罪も起こしてないです…。調べて貰ったらわかると思うんですけど、逮捕歴もないですし…。』

精一杯、嘘ではないけど、事実でもないようなことを考えて話す。

「…そうなの？なら、心配いらないのかしら、」

『…はい、ご心配おかけして申し訳ないです。彼女は本社勤めで、私は支社の方にいたので…。恐らく突然辞めた私に対して、根も葉もない噂が流れてしまっているんだと思います。』

世の中怖いわねえ、と納得してくれた上司だが、優しくなんかはなかった。

数日後、上層部に呼び出された私は、自己都合退職するようにと勧告を受ける。

突然の出来事すぎて、何故ですか？と問い詰めると、こないだの打ち合わせで同じだった上司が例の件をチクったというのだ。

『…それは根も葉もない噂だって言いましたよね？』

「君の前の会社に問い合せたんだよ、そしたら捕まってはいないけど、高校生と色々あったのは本当だって言うじゃないか、」

『そんな、根拠もないような、』

「どちらにせよ、君はそんな噂を流されるような人間だってことだろう？そんな危ない人間、うちには置いておけないよ。申し訳ないけど、わかるよね？」

『納得できません。』

「…じゃあ、うちの会社でもその噂流させてもらうよ。君が生きていけないように、」

『っ、そんな酷いこと、』

「わかるね？」

トントンと、白い封筒を指で叩かれて、もうどうすることも出来なかった。

次の日、退職届を出した私は、そこから同じようなことを何度も繰り返すことになる。

退職歴が多ければ多いほど、不利になるし。

一生、自分の罪に怯えて暮らすぐらいなら消えてしまってもいいと思っていた時に、出会ったのが勇太だった。

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