ナイモノネダリ (ページ32)

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彼を守らなきゃって咄嗟に体が出た。

光成を殴ろうとしていたその手の前に立ちはだかるように飛び入る。

「…どけよ、」

『…辞めてください、』

「お前は引っ込んでろ、」

服を掴まれて、飛ばされそうになったけど、なんとかその場に踏ん張る。

『仮にも自分の息子ですよ、？そんな子、殴っていいわけないじゃないですか。殴りたいならいくらでも私を殴ってください、悪いのは全部私なので。』

頑なに光成の前からどかない私を見て、心底バカにしたようにため息をつかれた。

「…Aさん、」

『光成は下がってて。』

私を後ろに下げようとする光成の手を払った。

「そんなにうちの子のことが好きなら、わかるだろ？お前がこいつの人生の邪魔をしてるって、」

『…はい、そんなの充分わかってます、』

「だったら、」

『だから、！私がいなくなりますから…。この家からも、この街からも消えます。もう二度と息子さんの前には現れませんから。だから、彼のことは許してあげてください、』

最後の方は声が震えて聞こえていなかったかもしれない。

だけど、強くありたかった。

もう一人でも大丈夫って、彼に心配してもらわなくても大丈夫だって。

「Aさん何言ってんの！？」

私の目の前に回って、顔をのぞき込む光成の目を見たら、きっと泣いてしまうからわざと視線を逸らした。

「そんなの信用できるとでも？」

『…お望みでしたら、警察に連れてってもらっても大丈夫です。私に失うものは何も無いので。』

ほら、と彼の父親に連れていくように腕を出したが、気味悪そうにその腕を掴むことはしなかった。

「ねえ！俺のこと放ったらかしにしないでよ！俺の気持ち無視して、一人で暴走しないで！」

「光成、家に帰るぞ。」

私の肩を揺らしていた彼の腕を父親が引っ張って、引きずられるように彼は私から離れた。

ジタバタとまるで子どものように抵抗する彼を見て、心の底から申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

最初からこうするべきではなかったんだと、ひどく後悔した。

「…明日、退職届を持ってこい。」

『はい、』

最後に一言だけ、そう言うと光成を引きずりながら遠ざかっていく。

「Aさん！」って彼が何度も叫ぶ声を背に、私も自分の部屋へと戻った。

一度も振り返らずに。

*