ナイモノネダリ (ページ24)

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『あっ！あの！このドレスすごく綺麗だから、シワになったらいけないし、とりあえず一旦起き上がろ？』

なんとか小さな脳みそで考えた精一杯の言い訳は、彼には届かなくて。

「これ、綺麗な色してるよね。」

『うん、そうなんだけど、だからさ…』

「これね、母さんが昔女優してた時の衣装らしくて。」

『え？』

この状況で話すことなのか、とも思うけれど、さっきお母さんの話をしていた時より彼は幾分か楽しそうな顔をしているから、その話を私が遮ることはできなかった。

「女優っていっても、小劇場とかでちょっとした演劇をやるくらいだったらしいんだけどさ、父さんと結婚が決まった時に、女優もやめて全部仕事道具は処分したらしいんだけど。これだけは、どうしても好きな色だから手放せなかったらしくて。」

『…確かに、私もこの色すきだな。ただの紫じゃなくてなんかこう、深みがあるというか、』

「そうなんだよね。だから、Aさんに似合うと思った。」

『え？』

「Aさんは、いつも深い愛情で俺を包み込んでくれるでしょ？」

見下ろす彼と目が合って思った。

彼は私と自分の母親を重ねているのではないか。

だとしたら、私は彼になんてことを言ってしまったのだろう。

彼からしたら、おばさんに押し付けられた気持ち悪い感情でしかないのではないか。

また脳内で一人で論争を勃発させていると、彼が声を出して笑う。

「ふはっ、Aさんまた脳内論争してるでしょ？表情コロコロ変わりすぎ、」

『…もう、バカにしないで、』

「…確かに最初はAさんと母さん重ねてたのかもしれないけど、」

なんで私の頭の中が覗かれてるの？と思いながらも、ゆっくりと話し出す彼に耳を傾ける。

「なんていうかほら、友達とかはちゃんといるけど、家族の愛情ってちょっと違うじゃん？しばらく感じてなかったそれをAさんがまた思い出させてくれたから。」

『だったら、押し倒してないで、私たち家族なんでしょ？』

「んーん、ちゃんと話聞いてよ。最初は、って俺言ったじゃん。今はどうか言ってない。」

なんだその屁理屈は、高校生の考えることはわからないなとぼーっと頭で考える。

「…家族だったら、こんなことしたいって思わないもん。」

あ、って思った時には時すでに遅し。

彼の甘い唇が降ってきた。

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