ナイモノネダリ (ページ20)

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｢……やっぱりよく似合ってる。Aさんに着てもらえて、…母さんも喜んでると思う。｣

『……お母さん？』

ドレスなんて七五三ぶりだからなんだか気恥ずかしくて、思わず大きく開いた胸元を隠す私の腕を掴んで優しく下におろす光成はそんなことを言う。

そういえば、彼からは父親の話しか聞いたことがない。

お母さんの話は初めてだ。

｢綺麗だから隠さないで。｣

『でも、』

｢お願い……｣

そう言う彼の目はすごく悲しそうで、どこか遠くを見ていた。

｢Aさんに、聞いて欲しい。俺の全てを。｣

彼の瞳に吸い込まれるように、コクっと頷くと、彼は座って？とソファに腰を下ろして隣をポンポンと叩く。

言われるがまま、隣に腰を沈めると、彼は私の両手を自分の両手で包み込んだ。

｢今から言うことは、Aさんを苦しめるかもしれない。だから、これから話すことを聞いて少しでも俺のことが憎くなったら追い出していいから、｣

『…どういうこと、？』

｢聞いたらわかるよ。Aさんを困らせたくなくて今までずっと黙ってた。だけど、俺にとってAさんは大事な人だから…。全てをさらけ出したい、全部聞いて欲しい、そう思ってる。｣

"大事な人だから"

そのフレーズが頭の中を駆け巡る。

私だけじゃなかったんだ。

この共に過ごしてきた時間を大切に思ってくれているのは。

「俺の父親は、よく癇癪を起こす人で…」

彼はゆっくりと話し始めた。

「俺が小さい頃から俺の母親にもキツく当たることが多くて、手を上げたりはしないけど、なんだろう、こう精神的に追い詰めてくるところがあって。物心ついた頃から俺は何度も母親にも一緒に逃げようって言ったんだけど、母親は、あの人は私がいないとダメなのって言うこと聞いてくれなかったんだ。」

私の手を包み込む彼の手が少し震えているように思えたから、彼の手をほどいて、逆に私が上から包み込んだ。

少しびっくりした表情を見せたけど、小さくありがと、と言うと彼は話を続けた。

「ある時、母親が手術しないと命が危険な病気になったんだ。だけど、父親が金は一銭も出さないって言い始めて……。俺はまだ子どもだったし働けないからどうすることも出来なかったんだ。」

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