ナイモノネダリ (ページ19)

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「じゃあ、行ってきます、」

いつもの様に、だけど、どこかいつもより私を見る目が揺れていた気がする。

彼が家を出るのを見送ってから丸一日経った。

丸一日何の連絡もなくて不安だったけど、昼休みにスマホを見ると

"今日はいつも通りに帰るね"

とメッセージが入っていて。

何も無かったようだ、とほっと胸を撫で下ろして、今日はできるだけ早く帰ろうとできる作業を昼休みの間にやってしまう。

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いつもより少しだけ早い帰り。

それでも外は真っ暗だけど。

少しでも彼の顔を早く見たくて、安心したくて、慌てて部屋の鍵を開けようと鍵穴に鍵をさす瞬間に、扉が開いて鍵は行先を失った。

驚いて顔をあげると、

「おかえり、Aさん。」

昨日の朝と何も変わらない、綺麗な顔のままの光成が微笑んでいた。

『なんで、？』

「ん？足音したから。この足音は絶対Aさん！と思って。」

くすくす笑っている彼に、心がザワついた。

『…光成もおかえり。』

「うん。」

『何もなくてよかった…。』

無意識に彼の頬に伸ばした手。

前に怪我をしていた場所を撫でる。

「なに？チューでもしてくれんの？」

『え！？』

からかうように笑う彼に驚いて慌てて手を離す。

「えー、違うの？玄関先でえらい積極的だなあって思ってたのに。」

そう言われて思わずきょろきょろと辺りをみまわした。

「大丈夫だよ、誰もいないから。ほら外つったってないで、中入りなよ」

『……もう私の家だからね？』

まるで自分の家かのように振る舞う彼にそう言うと、

「ごめんごめん」

って何も考えていないような返事。

スタスタと中に入っていく彼について部屋に入れば、窓枠に引っ掛けられた見たことないものに目を奪われる。

『何これ、綺麗……』

「ん、それAさんにあげるよ。」

『…え？』

「あげるから今着てみて欲しい。」

そう言って彼はそれを手に取り、私に差し出す。

なぜ彼がそんなものを持っているのか、

そんなことよりもそのスミレ色のラメが散りばめられたドレスに釘付けで思わず受けとってしまう。

受け取ってから、こんなもの自分には着こなせない、と不安になっていると、

「それ着てくれたら全部話す。Aさんに聞いてほしい。」

彼がそう言うから、着るしかなかった。

*