ナイモノネダリ (ページ18)

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「Aさん、」

『ん？どうしたの？』

自分の服になんてアイロンをかけないから、最初は火傷することもあったけど、気付いたら慣れてしまった光成の制服のアイロンがけ。

私の高校は男子は学ランだったからその頃の付き合ってた人にもやる機会がなくて結び方すら知らなかったのに完璧に出来るようになってしまった、光成のネクタイ結び。

私の生活にすっかり光成が溶け込んでしまった頃のこと。

いつもの様に明日の光成の制服にアイロンがけをする私の背中に彼は不安そうに声をかけてきた。

「明日、学校の後自分の家に帰ろうと思う。」

『……え？』

急なことでびっくりして、危うくアイロンを手の上に落としそうになった。

それに気がついた彼が私の手からアイロンを取り上げる。

「大丈夫、すぐ帰ってくるから。」

『…私は全然大丈夫だけど。光成がまたあんなことにならないか……』

私は大丈夫なんて、嘘だ。

光成がいないと、きっと私はもう生きていけない。

毎日光成のカッターシャツにアイロンをかけないと、毎日光成のネクタイを結んであげないと、

もうそれが私の生活リズムになっちゃったから。

それを光成が心配なんて言って誤魔化すのは、少しでも大人でいたいからだ。

「そうなった時のための、Aさんでしょ？もしまたあんなことになってもAさんが助けてくれるから、俺はもう怖くないよ。」

『でも、また怪我してからじゃ遅いし、かと言ってついていけないし……』

「大丈夫、ここで待ってくれてるだけでいいから。だから待っててね。」

『…何しに帰るの？どうしても必要なの？お父さんに会わなきゃダメなの？』

「学校の書類で、どうしても親のハンコがいるんだけどさ、連絡したら押して欲しかったら帰ってこいと言うから。」

『そっか……。』

「Aさんとの約束、ちゃんと学校に行くためには必要なの。俺もちゃんと卒業したいって最近思うようになったし。だから一日だけ我慢してて？」

『我慢してって私は寂しくなんか、』

「え、Aさん寂しいの？」

ニヤニヤと笑う彼に、はめられて。

ああまた彼の方が1枚上手だったと肩を落とす。

『なんでもいいから、気をつけてね？私のことは気にしなくていいから、自分のこと大事にして。』

「ん、わかってるよ。」

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