ナイモノネダリ (ページ2)

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独身最後の夜、1人で何をしようか考えた。

もっと最初から1人だとわかっていれば色々と計画をしたのに。

こう、急に放り出されるとどうしたらいいかわからない。

明日、顔がパンパンに腫れちゃうかな、そう思いながらも少しだけ、と訪れた居酒屋。

勇太に出会う前、よく一人で来ていた場所だ。

勇太の前では絶対に飲まないような強いお酒。

一口飲んでも二口飲んでも酔えなかった。

何杯目かわからないグラスに手を伸ばそうとした時、ふと聞こえてきた声。

「こうせい、それ取って。」

思わずふりかえって息を飲んだ。

だってそこには、さっきまでずっと頭の中にいた人がいたから。

今までだって幾度とこういうことはあった。

彼と同じ名を聞いては振り返り、違う人で落胆し。

だけど今日は違う。

間違いなく私が知っている"こうせい"だ。

恐らく会社の同僚かなにかと思われる人たちに囲まれた彼はピシッとスーツを着こなしていて。

髪の毛も綺麗に整えられている。

あの頃とはまるで違うけど、間違いなく彼だ。

その確信を得たと同時に私の頭の中が警報を鳴らしていた。

逃げろって。

彼と出会ったせいで自分がどれだけ苦しめられたか考えろって。

そうはわかっていても、一度は愛した人で、

いや違う、

今も愛していて、恋焦がれてたまらない人だ。

だけど。

だけど、私は明日ドレスを纏って神に誓うの。

…他の人と。

どれぐらいそうしていたのだろう。

手に持っていたグラスから水滴が滴り、私のスカートを濡らす。

じっと彼を見つめていた私の視線と、きょろきょろとあたりを見回していた彼の視線が重なった。

はっと息を飲み、大きく目を見開いた彼に背を向けてテーブルの上に5000円札を置いた。

目にたまってしまった雫に気づかれないように。

『お釣り、大丈夫です。』

カウンターの中にいる店主に声をかけて、小走りで店を出る。

胸につっかえた何かが苦しくて、思わずその場に崩れ落ちそうになった。

その瞬間、右腕を誰かに引っ張られる。

「…見つけた、Aさん。」

私のことをそんなふうに呼ぶのは彼しかいない。

わかっているはずなのに。

認めたくなくて、振り向けなかった。

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