ナイモノネダリ (ページ1)

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「これで準備バッチリだな。」

『うん…。』

「あれ、元気ない？」

『ううん！そんなことない！』

彼を不安にさせまいとブンブンと大きく首を振った。

「よかった。明日に備えて今日は早く寝なきゃな。」

『そうだね。』

そう言って私の手を取って歩き出す彼に、罪悪感が募ってしまう。

だって今私の頭の中にいるのは貴方じゃないから。

「ごめん、ちょっと会社から電話。」

『大丈夫、かけてきて？お休みの日にかかってくるってことは緊急だよ、たぶん。』

「ほんとごめんな？ちょっとここ座ってて。」

公園のベンチに座らされると、彼は少しだけ離れたところで電話に出た。

私の前では絶対に仕事の話をしないんだ。

電話を終えた彼は慌てた表情でこちらに駆けてくる。

「Aごめん、緊急事態が起きたらしくて、どうしても俺がいないと解決しないっぽい。」

『じゃあ行かなきゃ。』

「でも…」

『結婚式前日だって分かってるのに呼び出されるってよっぽどじゃない？ほんとに困ってるんだよきっと。』

「ほんとにごめんな？日付超えるまでには帰るから！Aは明日に備えてゆっくり寝てて。」

『うん、わかった。』

コクっと頷くと彼は来た道を元に戻っていく。

大学の同級生だった勇太と再会したのは3年前。

ゼミの同期会に行ったら彼がいて、思い出話に花を咲かせているうちに、彼の方からまた2人で会おうよと言われ、気づいたらそういうことになっていた。

大手の商社に入社していた彼は経済的にも社会的地位も安定しいて、まわりの友人や家族からも結婚したらいいじゃん、と言われ続け。

性格も優しいし、家事もやってくれるし、ルックスもいいし。

何の不満もない相手だと私自身も思っていて。

去年の私の誕生日にプロポーズをされて、特に断る理由もなかったら二つ返事で承諾した。

今日だって、こうやって結婚式前日まで念入りに打ち合わせをしていて、仕事に呼び出されたのに行こうとしていなかったし。

世の女性なら結婚式前日の男を呼び出すなんて非常識って怒るのかもしれないけれど、私からしたらそれほど大事な日に呼び出すってことは相当緊急事態なんじゃない？っていうのが先に来て。

迷わず彼を送り出した。

でも本当は彼のためなんかじゃなく、自分のためだ。

まだ誰のものでもない私の最後の夜。

1人になりたかった。

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