疑似恋愛 (ページ1)

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『最近あの子全然帰ってこないの。連絡してもスタンプ1個とかで返してくるからちょっと心配してて。』

大学進学とともに東京に出てから半年以上が経った。

夏休みに帰省したけれど母親から誕生日のあたりにまた帰ってこいと連絡を受け連休を使ってまた帰ってきた。

電車で3時間、だけど東京の大学に通うには遠すぎるその距離。

俺は頻繁に帰ってきてる方だと思う。

ちょうど俺が実家に到着すると中から笑い声が聞こえてきて。

恐る恐るリビングを覗くと俺の母親とAのお母さんが談笑していた。

湧くん帰ってきたなら私は帰るね、と立ち上がるAのお母さんを母さんが止めて何故か3人でお茶をすることに。

せっせと母親にお茶のおかわりを注ぐ俺に、

『湧くんはいいわね、頻繁に顔を出してくれて。』

そう言うから、Aちゃん何かあったの？って母さんが言う。

少し寂しそうに、Aが帰ってこないと嘆いた。

幼なじみのAは俺と同じく大学進学で上京した。

Aと同じ大学に当然行くものだと思っていた俺は、Aから女子大しか受験しないと聞いた時絶句してしまったけれど。

少しでも近くにいたくて俺も同じく東京の大学を選んだ。

はずなのに。

俺にも上京してからAから連絡が来ることはなく。

こちらから連絡しても素っ気ない返事ばかりで電話も出ないし。

『湧くん何か知らない？』

と言われたから俺も全然連絡とってないですと返す。

前期の成績が実家に送られてきたけれどそれもあまり芳しくなかったらしく。

Aの父さんも1回帰ってこさせろと怒っているらしい。

『私が元気だったら東京まで様子見に行くんだけど、ほら、こんな身体でしょ？』

Aのお母さんは俺たちが高校生の頃事故で足を不自由にしていて、車椅子生活を余儀なくされている。

「俺、様子見に行きましょうか？電話しても出ないなら突撃しちゃうしかないでしょ。」

咄嗟にでたそのセリフは半分はほんとに心配してるAの両親のため、でも半分は自分のためだった。

せっかく追いかけて東京に行ったんだ。

何も前進してないなんて、むしろ後退してるなんて、絶対にダメだ。

『ほんとに？お願いしてもいいかしら。』

嬉しそうに頷くAのお母さんに、任せてください、と微笑んだ。

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