【企画小説】道師の戦争 (ページ9)

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第四話　遥か昔、されど最近。【嵩画】ページ9

木造の部屋の中に沈黙が流れる。

ただの沈黙ではない。これは、彼の武器の一つである。この沈黙が、相手を自然と緊張させ、自分を恐れさせるものだとわかっている。
やがて彼は、その切れ長の鋭い双眸を開いた。

相手をじっと見つめる。沈黙に、さらに緊張と威圧感が混ざる。それは歴戦の者しか生み出せぬ独特の空気であった。目の前の青年も正座をしたまま、黙って此方を見つめていた。
…成る程、年の割には肝が座っていやがる。

「つまり。この時代の戦争を食い止める為に、俺…いや、俺達が呼ばれたってか。」
「はい。」

彼は「ふぅん」と呟きながら、視線を青年から外し天井や床へと移動させる。
戦後の日本のような、和洋折衷上手い具合に混ぜ合わさった部屋だが、机の上に重なった紙やら資料やらが、幾らか床に落ちている。
…よく見ると、飛行機の絵も混ざっている。

「……。」
「…下手なので…あんまり見ないで下さい」
「いんや、下手では無いと思うがな。上手くも無ぇが。…ありゃ、零戦か？」

そういうと、青年は少し驚いたような表情をしながら返答した。

「えぇ、…よくわかりましたね。」
「戦場でずっと見てたからな。飛んでるところも、壊されるところも。…陸軍機は居ないのか？」
「下手ですけど…九七式戦闘機なら」
「どれ、見せてみろ」

そう言うと、青年は一瞬迷いの表情を見せて立ち上がり＿＿恐らく足が痺れたのだろう、少し顔を顰めた＿＿机の方へ行って、紙の山から一枚引っ張り出して来た。
両手で手渡された絵を片手で受け取り覗き込むと、鉛筆の白黒画だった。
線は何度も「シャッシャッ」と描いた跡があり、翼の付け根を描くのに苦労したのであろう、その辺りだけ真っ黒になっている。そして筆圧から、脚の丸みにこだわったのがよくわかる。
少し歪ではあるが、まぁまぁ、だ。

「懐かしいな…俺の知り合いが航空兵に行ったんだが、脚が可愛い脚が可愛いって手紙に書いてきてな。…あんた、脚にこだわったろ」
「…脚の丸みが可愛くて、好きなので」
「はっ、あんたもかよ」

予想通りの返答に、彼は思わず笑った。