優しい世界［5］ (ページ8)

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Yugo side

＂練習終わった＂
北斗からの連絡。了解のスタンプを送り、家を出た。

いつも練習に使う競技場は家から少し遠くて、車で約30分。
どこの施設でも、車イスで使えるわけじゃないから、使う競技場は限られてくる。

送迎のため2度の往復で最低2時間は費やすことになるけれど、なんてことない。
もともと車の運転は好きな方だし、何より我が子のためと思えば親というものはどうにでもなるらしい。

駐車場に到着し車を停めると、それに気付いた北斗は器用に競技用の車イスを押しながらこちらに向かってきた。
自分も車から降りてそちらに向かい、車イスを受け取った。

「おつかれ」「うん、ありがと」

トランクに競技用を積んで、その間に助手席に移乗した北斗の車イスを後部座席に乗せた。

「っしゃ、行くぞ～」

「今日は母さんがご飯作っといてくれるって」
「おっ、いーね」

今日も休日出勤で朝から出かけていった奥さん。
帰りは早いから夕飯はまかせて、と連絡があった。
きっと俺らが家に着く頃、ちょうどご飯時だ。

車内の2人の時間は意外と静かなもので。
昔はおしゃべりさんで北斗の話を一生聞かされていたけど、ここ最近はあまり自分のことを話さなくなった。

こっちから話せば返答もするし反抗するわけでもないし、男の子の成長なんてこんなもんかな、とも思ってはいる。

助手席で北斗は参考書を開いた。
テストが近いとは言え、練習後で疲れてるだろうに。

時々会話を交わしながら、カーラジオに耳を傾けながら、行きよりも少し混んだ道を走っていると、いつの間にか参考書を片手に北斗は眠っていた。

まだまだ子供だな、なんて思いながら、そーっと本を抜き取って鞄に戻した。

程なくして我が家に到着。
車イスを降ろして助手席の扉を開け、声をかける。

「ほくと～、着いたよ」
肩を数回叩くと目を覚ました。

「…っおっ！」「あぶね！」
移乗の途中、力が抜けてバランスを崩した北斗。
咄嗟に支えられたから転倒もしなかったけど、、

「気を付けろ？」
「ごめん、ありがと…寝起きでぼーっとしてた」