拝啓、僕が歩んだ日々へ (ページ25)

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モノラルサファリページ25

「あなたは私と心中するんですよ、必ず」

振り返った彼女の黒髪が生き物のように旗めく。
どこが好きかと問われればその冬の花のように微笑むところが好きだった。どこが愛おしいかと問われればきっと一つも愛おしくは無かった。

2月の冴えない校舎の屋上。頬を破く程に冷たい風が、僕と君と電波を掻き乱す。

「......へえ？なんで」

「私がそうしたいからです」

くだらない戯言に半ば吐き捨てる様に言葉を放った。

「とんでも無いエゴイストだな、お前。何で僕がお前1人だけの為に死ぬワケ？」

僕には辛うじて恋人と言う存在がいたし、家族も、友人も、幼馴染もいた。全てに満ち足りてツマサキ立ちの僕は、透ける檻の外からこのヒビ割れたグラスのような女を見据える。

彼女は僕の言葉には返事をせず、ただ意味ありげに笑って見せた。

「なあ、........おい、」

「しんさんちょっとあっち向いてて」

「は？何言ってんのお前」

「いーから」

悪戯っ子の様に三日月型に細められた瞳。どんなくだらない企んでいることやら。

拒否する理由も無く言われた通りに、彼女とは反対の方向を向く。
暫く経って、コンクリートを踏み歩く音、少しの金属の擦れる音。

「_____________A？」

ドサリ。その音は牡丹の花が宇宙に耐え兼ねて落下したように重く、儚い。

劈くような悲鳴が脳内回路をぶっ飛ぶ僕を引き摺り降ろし、叩き付ける。

感覚を無くした脚を、マリオネットの如く縺れさせながら彼女へと走らせた。勢い良く掴んだ錆びれた手摺りがギィと軋む。
耳元で走った後の様な不規則で荒い息が煩い、ああ、いや、これは僕の声か。

こんにちは。

地面に食い千切られた彼女が、終わる。彼女は鳥では無かった。
........眼球にそのまま貼り付けられたようにこびり付いて剥がれない、彼女が、血が、赤が。

胸に込み上げる酸素と、胃液と、愛。

ひどく冷たいコンクリートに嘔吐を繰り返した。