拝啓、僕が歩んだ日々へ (ページ11)

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VoiCE ページ11

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声が出なくなったのはもう随分前のことだった。

別に事件に巻き込まれたわけでもないけれど
ある日を境に声の出し方を忘れてしまった。

奪声症、というらしい。
書いて字の如く、声を奪われる病気だそうだ。

発症例は今までにもいくつか挙げられているものの、
発症の原因が分かっていないそうだ。
今までに完治したという例は挙げられていないそうだ。
何というか、不治の病とでも言うべきか。

それにも関わらず、私が大して悲しくなかったのは、
恐らく、私に伝えなければならない言葉など数えるほどにも無かったからだろう。

元から口数の多い方ではなかった。
今さら声を失ったところで、変わることなど何もなかった。

強いて言うならば、少々他人とのコミュニケーションが取りづらくなった程度か。

手話を覚えたらどうだと父に勧められたが、
私が覚えたところでその意図を汲み取ってくれる人間が何人いるだろうか。

まして、私のために手話を覚えようとする人間がいるだろうか。

いないのだ。いるはずがないのだ。
期待されるようなことなど、してきたことがないのだから。

私は自らの声で言葉を伝える術は失ってしまったけれど、
言葉を伝える手段は何も一つじゃない。

だから私は、紙とペンを取って、言葉を文字に書き起こした。

そうして言葉を伝えてきた。
それで今の今まで生きてこられたのだ。

それならそれ以上を望む必要なんてないでしょう。

自らの声に拘って伝えたい言葉なんて、
私は持ち合わせていないのだ。

伝わればそれで良い。手段は問わない。
ただ、私の意図が相手に伝わるのなら何だって良い。

そう思っていたのだ。

確かにそれで良いと思っていたし、
何となく自分が奪声症を患ったことにも納得はしていたのだ。

治らなくても良いと、諦めていたのだ。

「君は本当にそれでいいの？」

あの人に、出会うまでは。