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二十六話 ページ28

反省しているならいいが、こんなことはもう続けるなよ。

そう言われて俯きそうになった顔を、無理矢理上げた。
そうか、私がいなくなったときの心配事は、王族の顔か。それだけか。私の身の事は、全く案じてくれないのか。
なぜだか笑いたくなった。虚しくて心が痛くて涙を流したくて蹲りたくて、でも私にはそのどれもができなかった。随分昔に下手くそになってしまっていたから。


「まぁこうして戻ってきたのはいい。踊るぞ、早く手を取れ」

「……はい、アレン様」


半ば強引に引っ張り出された会場。ここよりも広くて、豪華なところで、私は何度もアレン様と踊った。毎回彼のエスコートとステップは完璧で、そのせいで何度劣等感を覚えたことか。
私も踏み間違えないよう、もう目を瞑って一人の時でも踊れるステップを踏む。お手本通りのつまらないダンス。
二回目も続けて踊り、私はアレン様と踊り終えたら会場から人混みの方へ歩いた。アレン様から大きなため息を聞いたときは心が凍えそうになった。彼からの視線は、私が人ごみに紛れたあたりからやっとなくなった。


「なんで、怖いなんて思ったんだろう……」


なぜだか、最近の私は弱くなってしまった気がする。あの手紙のせいだろうか。エリザが話しかけてくれたからだろうか。先輩が私を励ましてくれたからだろうか。黒髪の彼女と話したからだろうか。どれが私に温かさを教えてくれたのか。なんていらないことをしてくれたんだろう。
私は孤独に生きるのだと思っていた。アレン様のお傍にいるだけで、仲はよろしくない。家族からは嫌われてて、学園からはあまりいい目で見られたことはない。だから、独りぼっちで生きていくのだと思っていて、そして決意していたのに、それを揺らしたのは誰?
自分が怖い。孤独に慣れなくなった私がいるかもしれないことが、怖い。

柱の陰に隠れて、緊張から上手く働いてくれない頭をおさえて、何度も深呼吸をした。だんだんとクリアーになっていく頭にほっと安堵する。

落ち着け、パーティはまだ終わってない。冷静さを欠いたら碌なことが起きないことは知っているのだから。大丈夫、大丈夫……。

ふぅ、と気分を変えるように勢いよく息を吐き、会場の方を見る。華やかなそこは、見れば沢山の優雅な笑顔と楽しさに溢れていることに気付いた。本当に落ち着きというのは大事だとつくづく思う。


「やはり、笑顔はいいものですわね」


ゴーン、ゴーンと響く鐘の音が、パーティの終わりを告げた。

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ふう(プロフ) - 読ませて頂きました!!もうほんと途中胸痛かったけど、最後ハピエンで良かったです!!何か、自分をみてくれないって思ってたところがえりざ?ちゃんと夢主ちゃん似てるな、って思いました!!素晴らしかったです! (2019年9月13日 17時) (レス) id: 98934c9ea5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:真冬 | 作成日時:2018年1月19日 23時

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