八 ページ8
＿＿＿まったく、面倒なもんを残しやがって
＿＿＿食いぶちを増やす余裕なんてありゃしないってのに
＿＿＿いっそのこと熊にでも喰われちまえば…
＿＿＿それが、妙な力を持っててねぇ
＿＿＿獣を枯れ枝で追っ払ったとか
＿＿＿傷をつくっても直ぐに治っちまうとか
＿＿＿ほんと、不気味な子だよ…
どうやら私はまた夢を見ているらしい。
何年も昔、まだ私が小さかった頃の。
流行り病で両親を亡くした私は、村長の家族に引き取られ、下婢の様な生活を強いられた。
狭い物置で夜を過ごし、朝日が昇るとともに、掃除に洗濯、野良仕事の手伝いに薪割り。
日が暮れるまで働かされて、僅かな残飯を貰う。
時には残飯も貰えず、狩でもして来いと、丸腰で山に入れられた事もあった。
この生活は、どのくらい続いたんだっけ…
どうして私は生き残ったんだろう、どうして両親と一緒に死ねなかったんだろうと、何度も考えていた。
そんな時、近くの村が次々と鬼に襲われ、私の村にも不安が広がった。
そして村長は私に言ったのだ。
「お前のような役立たずでも、皆のためになれるんだ。喜んでお務めしなさい。」
私は珍しく湯浴みを許され、真っ白の綺麗な着物を着せられた。
ぼさぼさだった髪も綺麗に整えられ、小さな唇には紅が塗られる。
初めての事に気分が高揚し、私は花嫁にでもなったような気分だった。
そして連れられてきたのは村の外れ。
そこに私を迎えに来たのは、幼心に夢見た素敵な旦那さまでは無く、恐ろしい姿の鬼だった。
『ひぃっ！！』
あまりの恐ろしさに、私は瞬きすら出来なかった。
真っ赤な鬼の目玉が私を見つめる。
「こんな餓鬼を贄にするとは。人間ってのは、どっちが鬼だか分かりゃしねぇな！
まぁ、おめぇみてぇながりがりの不味そうな奴、俺でも願い下げだ。」
そう言って鬼は、笑いながら行ってしまった。
直ぐに村からは悲鳴があがる。
震える足でなんとか私が戻った場所に残されていたのは、一面に広がる血の海と、無残に転がる骸だけだった。
また私は、生き残ってしまった。
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作者名：mina | 作成日時：2020年11月30日 9時
