23 ページ23
｢あー、その、なんだ……すまなかった…｣
ポリポリと居心地悪そうに頭を掻いてから、青キジは頭を下げた。海軍本部の大将が、14歳の少女に頭を下げたのだった。
市民を守る海軍が一枚岩じゃない事くらい青キジも知っている。不正を働く海兵がいる事も知っている。正義という言葉を使って暴走をする海軍を知っている。
大将という座になった今も、22年前に起きた事件で己の正義は何なのかと苦悩した日々を鮮明に覚えてるし、それは現在も進行形である。そして目の前の少女の一件で青キジは一民間人の悩みにも聞き入れ協力するようにしてきた。してきたつもりだ。
こちらを向いた少女の目には確かな憎悪と怒りとが混ざり合っていた。少女は元々は一般人だったのだ。何も知らずに成長して人並みの幸せとやらを手に入れて、何にも害されずに死んでいくはずの少女だった。人々の幸せを守る海軍が一人の少女を不幸にして絶望という名の暗闇のどん底へと突き落とした。少女の願い望んだ"普通"を奪ったのは他でもな海軍だった。
｢そんな一言で済ますなよ…！｣
だから、少女が怒るのは自然なこと。青キジも少女が目の前の反応を見せると分かって謝った。青キジに人を怒らせる趣味がある訳ではない。分かっていても頭を下げずにはいられなかったのだ。
自分を恨んだ。あの日伸ばされた小さな手をどうして握ってやれなかったのだと。どうしてもっと小さな声を聞かなかったのだと。爪を立て理不尽を許した理由をあの日、彼は答えられなかった。
｢お前らがいなければ私は普通でいられた。人よりちょっとだけ身体能力が高いだけで終わったはずだった。あの感触を知らずに済んだ。眠れなくなる事も無かった。自分を嫌いになる事も無かった。人を嫌う事も無かった。自分を拒絶する事も、恐怖する事も、自分を疑う事も、信じられなくなる事も無かったはずなんだ。｣
｢あァ……｣
｢ふッざけんなよ！！！｣
声を荒らげたのは何時ぶりか。こんなにも大声で叫ぶ事が出来たのかと感心した。自分の鼓動はこんなにも速く動けたのかと思った。こんなにも腹が立ったのは恐らくあの頃以来。少女は大人ではない。過去は過去だと分かって割り切ったつもりでいても、所詮は"つもり"でしかない。本当に割り切れてしまう程少女は大人ではなかった。
｢A…？｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 378人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
チョコレート(プロフ) - きゃーぽんさん» ありがとうございます！面白いと思っていただけるよう、これからも頑張っていきます！ (2021年10月18日 1時) (
レス) id: 077184ce48 (このIDを非表示/違反報告)
きゃーぽん(プロフ) - 面白くて一気に読みました！これかも頑張ってください！ (2021年10月18日 1時) (レス) id: 0aee990b2e (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 水無月碧音さん» ありがとうございます！！まだまだ未熟者ですが、楽しんでいただけているようで私も嬉しいです！ (2021年10月16日 4時) (レス) id: 077184ce48 (このIDを非表示/違反報告)
水無月碧音(プロフ) - とっても面白いです！繊細な文章で、読んでいてとてもワクワクします！応援してます、頑張ってください!! (2021年10月15日 21時) (レス) @page17 id: 8595db9a5d (このIDを非表示/違反報告)
チョコレート(プロフ) - 星猫さん» んー、結構色んなアニメ知ってると思います！ (2021年10月14日 16時) (レス) id: 077184ce48 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：チョコレート | 作成日時：2021年10月12日 19時
