墺:「認めてくれた人」 ページ10
無機質な冷たいドアを開けた。
吹奏楽部の部室の中は窓から差し込んだ夕陽に眩しく照らされ、温かくもあり寂しくもある空間を作り出していた。
ちょうど全日本吹奏楽コンクール全国大会からの帰り。結果は銅賞だった。一生懸命練習に励んだこの部屋で、思い出を振り返りたくて戻ってきた。
「Aさんもここへ来たんですね。」
「ローデリヒ…。」
ローデリヒはわたしに話しかけながらそっと歩み寄る。
一瞬だけ眼鏡がきらりと輝き、ブルネットの髪が普段よりも幾分艶やかに見えた。
「無事にコンクールが終えられてよかったです。金賞ではなかったのは残念でしたけど。」
「うん…銅賞だってわかった時にはみんな暗い顔してたよ。」
中には泣いていたのもいたっけ。わたしはそれらの感情を通り越して涙も出なかった。ただ心が重く感じた。身体が急に疲れたように感じただけ。
「でも一番残念だったのはローデリヒなんじゃない?」
「なぜですか?」
「だって、この吹奏楽部で一番頑張ってたのはローデリヒじゃん。」
女ばかりの部員たちの中で、ローデリヒは数少ない男子の一人だった。
女子部員たちの修羅場を何度も潜り抜け、誰よりも音楽の才能があり、顧問の先生や部員たちから認められるほどの実力を持っていた。それなのに部長になることはなく、ほかの女子部員にその座を譲り、また副部長の座も手に入れることはなかった。
ローデリヒがその座に一番ふさわしい人材だったのに、男子だというだけで得られなかったものがたくさんある。
「何を言っているのですか、このお馬鹿さんが。一番頑張っていたのはAさんでしょう?」
ローデリヒこそ何を言っているんだろう?
「全国大会が終わった後、Aさんのほかに一体何人の部員がこの場所へ思い出を振り返りにやって来たと思いますか?それほど部活にかける情熱がAさんにはあったということです。私が頑張っていたとしてもそれは二番目です。Aさんの次ですよ。」
「そんな…ローデリヒったら何言ってんの。わたしは何も…」
「いいえ、Aさんが吹奏楽部の中で一番頑張っていました。私はずっとAさんを見ていたから知ってます。」
わたしにはローデリヒのような才能は無いけれど、こうして誰かに認められたのであれば、それで充分だと思えた。
一人でも努力を認めてくれる人がいたのなら。
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桜葉 - スノーデイさんの小説はどれも素敵ですね!これからも頑張ってください応援してます! (2017年10月28日 11時) (レス) id: e19bf62fb6 (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ショコラさん» ありがとうございます!これからもそう言っていただけるように頑張ります。 (2016年4月28日 14時) (レス) id: cb443af24c (このIDを非表示/違反報告)
ショコラ - スノーデイさんの小説はどれも素敵で読みやすいです!これからも応援しています!(*^_^*) (2016年4月26日 20時) (レス) id: 8dc6dca93f (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ルネさん» ありがとうございます。しかしわたしはまだまだなのでもっと読みやすい文章が書けるように努力します。 (2016年4月1日 23時) (レス) id: 34f11f5ff1 (このIDを非表示/違反報告)
ルネ - 文章全てが綺麗でわぁ青春だなぁと思えるようなものばかりで素敵です。 (2016年4月1日 20時) (レス) id: 97fe96e6af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スノーデイ | 作成日時:2016年3月10日 21時