南伊:「見送る後ろ姿」 ページ47
小学校の卒業式に約束したことがあった。
みんな高校を卒業して大人になったら、子供だった頃の思い出を振り返りに小学校の校庭に来ようと。
「…やっぱり誰も来てないよな…。」
あの日の約束通り、わたしは律儀にも母校である小学校へやって来た。
行くつもりはなかったけれど、春からわたしは大学生として地元から離れて遠くで暮らす。その前に馴染みのある場所で思い出を振り返りに来たというわけだ。
そして良い思い出も、つらい思い出も全部愛せるようになれたら…。
「Aじゃねーかよ、コノヤロー。」
声をかけたのはロヴィーノだった。
ずっと昔の同級生。
でもわたしを覚えていてくれた。
「すぐにわかったぞ。Aは昔とちっとも変わんねぇな。」
「ロヴィーノも変わらないね。顔も昔と同じだよ。」
変わっていないと言われるのは良いことなのか悪いのか。
それでもあの頃のままなのは嬉しい。そうでなければロヴィーノがこうして親しく声をかけてくれることもなかっただろうから。
「Aは就職か?」
「ううん。進学だよ。」
「そっか。どこの学校だよ?」
「ずっと遠くの学校なんだ。」
「じゃあ帰って来るのも大変だな。こんちくしょうめ。」
少しの沈黙。乾いた風が校庭を吹き抜けた。
「俺、今日ならAに会える気がしたんだよ。」
ロヴィーノの意味深な言葉。
「A。よく聞けよこんちくしょう。」
「うん。わかった。」
「俺がチビだった頃は、Aがすべてだったんだよ。コノヤロー。」
言いたかったのはそれだけだ、と言ってロヴィーノはその場を立ち去ろうとした。
「言いたいことはそれだけって、ちょっと待ってよ!どこ行くの?」
「家に帰るんだよ。俺の用事は済んだんだ。どこへ行こうが俺の勝手だろうが、コノヤロー!」
過去に背中を向けるように、今はわたしに背を向けている。
「でもな、つらくなったらいつでもここに帰って来いよ。」
「え…?」
「俺はいつでも待ってるからな。こんちくしょうが。」
あの頃は言えなかった気持ちを、ロヴィーノはわたしに伝えたかったのかもしれない。
わたしも何か言うべきだったなと思っても、ロヴィーノの背中はずっと遠くにあって今にも小さく消えてしまいそう。
「ありがとう。わたしも同じ気持ちだったよ…」
わたしはその背中に小さく手を振り、ロヴィーノの後ろ姿を見送った。
一人きりの校庭で。
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桜葉 - スノーデイさんの小説はどれも素敵ですね!これからも頑張ってください応援してます! (2017年10月28日 11時) (レス) id: e19bf62fb6 (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ショコラさん» ありがとうございます!これからもそう言っていただけるように頑張ります。 (2016年4月28日 14時) (レス) id: cb443af24c (このIDを非表示/違反報告)
ショコラ - スノーデイさんの小説はどれも素敵で読みやすいです!これからも応援しています!(*^_^*) (2016年4月26日 20時) (レス) id: 8dc6dca93f (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ルネさん» ありがとうございます。しかしわたしはまだまだなのでもっと読みやすい文章が書けるように努力します。 (2016年4月1日 23時) (レス) id: 34f11f5ff1 (このIDを非表示/違反報告)
ルネ - 文章全てが綺麗でわぁ青春だなぁと思えるようなものばかりで素敵です。 (2016年4月1日 20時) (レス) id: 97fe96e6af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スノーデイ | 作成日時:2016年3月10日 21時