摩：「幸福の願い」 ページ43
まだわたしがほんのチビだった頃の話だ。
あれが幼稚園だったのか、それとも小学校だったのかは覚えていない。
しかし、わたしと同じ学校にとてもいい子がいたということだけは記憶している。
素直で、誰にでも愛想が良く、そして心優しく何でも言うことを聞く子だった。
「Aおねちゃん！一緒に遊ぼなのな！」
校庭のような広い場所。地面が所々草の生えた砂場のようなところだったと思う。
わたしが一人でじっとしていれば、その寂しい様子を悟ってすぐに駆け付けてきてくれるような優しい子。そんな心配りができる子。
わたしがその子にどれだけ救われたか。
「Aおねちゃん…。おいら、今度の日曜にAおねちゃんやほかのみんなとお別れしなくちゃならないのな。」
突然の言葉に頭が真っ白になったのを覚えてる。
「おいらん家、うちの事情がちょっと複雑なのな。詳しいことは言えないけど、それでおにちゃんと引っ越すことになったのな。」
その丸い目は潤んでいた。
何かよほどの事情があったのだろうか。
「おいら、ほんとは誰にもサヨナラなんか言いたくないのな。もちろん、Aおねちゃんにも。だけどな…おにちゃんを一人にするのが可哀想で……」
そして口から出たのは子供とは思えない言葉。
「おいら、もうはしゃいでるだけでいい子供じゃあないのな…。」
それから間もなくその子はどこか遠いところへ引っ越して、それからどうしているのかもわからない。でも人に言えないような家庭の複雑な事情があったことは大人になった今なら薄々わかる。
きっとその子は誰かのために、無理矢理にでも自分の気持ちを踏みにじったのだろう。
その子の身に何があったかは知らない。
しかし、自分を生贄として何かに差し出すような子供の純真さが怖くて愚かで切ない…そのことだけは幼心に大きく残った。
「どうしてるのかな…？」
今となってはもう知るすべもない。
その子について覚えていることもそれくらいだし、あとは名前がかすかに記憶に残っている程度。
「幸せになってるといいな……モル君。」
わたしは青空を飛んでゆく鳩にその子の幸せを託した。
空の彼方へ幸福の願いを。
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桜葉 - スノーデイさんの小説はどれも素敵ですね！これからも頑張ってください応援してます！ (2017年10月28日 11時) (
レス) id: e19bf62fb6 (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ショコラさん» ありがとうございます！これからもそう言っていただけるように頑張ります。 (2016年4月28日 14時) (レス) id: cb443af24c (このIDを非表示/違反報告)
ショコラ - スノーデイさんの小説はどれも素敵で読みやすいです！これからも応援しています!(*^_^*) (2016年4月26日 20時) (レス) id: 8dc6dca93f (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ルネさん» ありがとうございます。しかしわたしはまだまだなのでもっと読みやすい文章が書けるように努力します。 (2016年4月1日 23時) (レス) id: 34f11f5ff1 (このIDを非表示/違反報告)
ルネ - 文章全てが綺麗でわぁ青春だなぁと思えるようなものばかりで素敵です。 (2016年4月1日 20時) (レス) id: 97fe96e6af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：スノーデイ | 作成日時：2016年3月10日 21時
