勃：「大切な一人」 ページ42
「A。」
賑やかな学園祭の中。生徒玄関近くの階段で、ブル君がわたしの名前を呼んだ。
「Aって入学した頃よりいろんな奴と仲良くするようになったよな。」
「んー、そうかなぁ？自分では全然そんな気しないけど…。」
「いや、俺にはわかるんだわ。入学前までは大人しかったAがだんだん明るくなっていくのがさ。」
そう言われてみればたしかにそうかもしれない。この学園の生徒のみんなはとっても優しいから。
だから引っ込み思案なわたしでも人の輪の中へ入っていけるようになった。
「Aはみんなのこと、どう思ってんだよ？」
「みんなのこと？大好きだよ。」
「じゃあ俺のことは？」
「ブル君のことも好き。」
やっぱり、とブル君は呟いた。
肌が透けて見えるほどの薄いシャツが風に煽られ、ネクタイと一緒に動いてる。一緒に回った出店で買ったジュースが固く握りしめられているのをずっとわたしは見つめていた。
「俺はみんなの中の一人にされるくらいなら、Aに好かれるのはごめんなんだわ。」
「えっ？なんで。」
その横顔は真剣そのもの。
ブル君が握っている缶ジュースがパキリと音を立てた。手首の筋もはっきり見える。手は震えていないのに、心は大きく揺れ動いていることを薄々感じ取った時。
「俺、Aの中では常に一番でいたいんだわ。」
「ブル君…？」
「いや、やっぱ一番じゃダメだわ。」
「じゃあどういうこと？」
「…Aの特別な存在になりたいわ。誰にも代わりが出来ない存在に。」
深い呼吸を２回、３回、ゆっくり繰り返すブル君。
「俺、Aが好きだわ。ほんとに大好きなんだわ。」
頬を赤くして、うるさい心音まで聞こえてきそうなブル君の様子。その姿がとても尊いものに見えて、手を伸ばそうとしても手が出ない。言葉も出て来なかった。
「そんな…やめてよ。どうせわたしをからかってるんでしょ？」
「これは遊びじゃねーんだわ！俺の本当の気持ちなんだわ。」
ブル君の気持ちをてっきり嘘だと思っていた。本人は真剣だったのに、ちょっとひどいことをしてしまった。
「…ありがとう。すごく嬉しい。」
もうブル君は大勢の中の一人ではない。
今からわたしの大切な人だ。
「まあ…それならアレだわ！これからもこんな俺をよろしくなんだわ。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 60人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヘタリア」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
桜葉 - スノーデイさんの小説はどれも素敵ですね！これからも頑張ってください応援してます！ (2017年10月28日 11時) (
レス) id: e19bf62fb6 (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ショコラさん» ありがとうございます！これからもそう言っていただけるように頑張ります。 (2016年4月28日 14時) (レス) id: cb443af24c (このIDを非表示/違反報告)
ショコラ - スノーデイさんの小説はどれも素敵で読みやすいです！これからも応援しています!(*^_^*) (2016年4月26日 20時) (レス) id: 8dc6dca93f (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ルネさん» ありがとうございます。しかしわたしはまだまだなのでもっと読みやすい文章が書けるように努力します。 (2016年4月1日 23時) (レス) id: 34f11f5ff1 (このIDを非表示/違反報告)
ルネ - 文章全てが綺麗でわぁ青春だなぁと思えるようなものばかりで素敵です。 (2016年4月1日 20時) (レス) id: 97fe96e6af (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：スノーデイ | 作成日時：2016年3月10日 21時
