日:「孤独な停留所」 ページ33
12月の寒さはどこか寂しい。
「あれ?菊、もう帰ったんじゃなかったの?」
「バスに乗り遅れたんですよ。もう40分以上も待ってます。」
時刻は午後6時過ぎ。外は真っ暗で、停留所の側にある電柱の灯りだけがその場を照らしている。
雪深い中を歩いて帰るわけにもいかず、菊はずっとこの寒い停留所で待っていたのだろう。たった一人で、氷のような寒さに凍えながら。
「そうだったんだ…ずっと一人だったんだね?」
わたしがそう言うと、菊はマフラーで口元を覆いながら「ええ」と答えた。吐く息は白く漂い、頬も鼻も寒さで赤くなっている。手袋も履いていない手はかじかんで震えていた。
わたしは菊に一歩近づいて、何も言わずに自分の着ていた上着を菊にかけてやった。
「…あの、何ですか?」
「寒いでしょ?バスが来るまで貸してあげるよ。」
「いいえ、結構です。これはAさんが着てください。」
困った顔をして菊はわたしの上着を返そうとする。でもわたしは受け取らない。受け取りたくなかった。
「私に構わないでください。これではAさんが風邪を引いてしまいます。」
「この寒さの中で40分以上も待つほうが風邪引くよ。いいから着なってば。」
菊は諦めたように溜め息をついて、わたしの上着を抱えたまま停留所の椅子に座った。
その顔は寂しそうと言うより、どこか不機嫌で、苛立っているようにも見える。普段は無表情で穏やかな菊がこんな顔をすることもあるんだなんて、そんなふうに感じていた。まるで他人事のように。
「私のこと、どう思いましたか?」
「どうって…何が?」
「恰好悪いと思ったでしょう?」
自分で自分を嘲笑う菊をわたしは初めて見た。
「バスに乗り遅れた挙句、どうすることもできずにここで待ち続けて、そして女性の上着を借りるなんて。」
タチの悪い自虐だ。
「なんで?そんなこと思わないよ。」
菊はおかしい。
「わたしはただ菊につらい思いをしてほしくないだけ。次の日、学校で菊に会えないなんてわたしは嫌だよ。」
「優しいことを言ってくれるのですね、Aさんは…。」
今度は二人の吐息が空中で混じり合う。ゆっくりと時間をかけて、優しく穏やかに消えてゆく。
「本当はこんなことを言うつもりはなかったんです。それに……」
少しの沈黙の後、菊はゆっくり顔を上げてこう言った。
「Aさんに情けない姿を見せたくなかったんですよ。」
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桜葉 - スノーデイさんの小説はどれも素敵ですね!これからも頑張ってください応援してます! (2017年10月28日 11時) (レス) id: e19bf62fb6 (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ショコラさん» ありがとうございます!これからもそう言っていただけるように頑張ります。 (2016年4月28日 14時) (レス) id: cb443af24c (このIDを非表示/違反報告)
ショコラ - スノーデイさんの小説はどれも素敵で読みやすいです!これからも応援しています!(*^_^*) (2016年4月26日 20時) (レス) id: 8dc6dca93f (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ルネさん» ありがとうございます。しかしわたしはまだまだなのでもっと読みやすい文章が書けるように努力します。 (2016年4月1日 23時) (レス) id: 34f11f5ff1 (このIDを非表示/違反報告)
ルネ - 文章全てが綺麗でわぁ青春だなぁと思えるようなものばかりで素敵です。 (2016年4月1日 20時) (レス) id: 97fe96e6af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スノーデイ | 作成日時:2016年3月10日 21時