日:「恋は湯煙」 ページ3
修学旅行での宿泊先には大きくて立派な大浴場がある。
わたしは早くお風呂に入ろうと、着ていた服がぐちゃぐちゃになるのも気にせずに脱ぎ、ようやく浴場に足を踏み入れる。
中には誰もいない。戸を開けると湯気が服の代わりにわたしの身体を包み、温かさと比例して入り口の床は冷たく湿っている。湯煙の向こう側にはぼんやり浮かぶお風呂…。
そこでわたしは肝心なものを忘れたことに気付く。
「あっ!石鹸忘れた!」
わたしとしたことが、こんなに大事なものを忘れてしまうとは。でもせっかく貸切のような状態のお風呂に入ってリラックスできるチャンスを失いたくはないし、本当に困った。
「Aさん、石鹸を忘れたんですか?」
壁の向こうの男湯から菊の声が聞こえた。菊も一番にお風呂に入ったらしい。
「もしよろしければ私のを貸しますよ。」
「えっ、でもそんな…」
「ちょっと待っていてくださいね。」
お湯がバシャバシャと音を立て、床がペタペタ鳴っている。菊がお風呂から上がり、一糸まとわぬ姿で歩く様子を少しだけ想像した。普段は制服の下に隠されている肉体を。
「今そちらに投げ込みますね。」
「ちょっ、ちょっと待って!そんなことしたら…!」
「人が来ないうちのほうがいいでしょう?」
そう言われた途端、壁を越えて投げられた石鹸。そのまま固い音を立てて床に落ちた。
「あ、ありがと…」
その刹那、ドッと入り込む女子たち。男湯のほうでも賑やかになってきた。
菊が貸してくれた石鹸を泡立て、その心地よい香りに身体を洗われて。
菊と同じ香りのする石鹸。まるで菊に抱かれているような感覚になったけれど、そんな恥ずかしい妄想をふくらみ始めたばかりの小さな胸に、のぼせたような気持ちで抱えていた。
使い終わったその石鹸はあいにく入れ物が無かったのでタオルに包んで返すことにした。
早く返そうと急いで女湯の暖簾をくぐってみると…。
「あ…。」
「Aさん…」
まったく同時に暖簾をくぐったわたしたち。驚きに身体が固まり、わけのわからない想いに心臓がうるさく音を立てる。
「石鹸はお役に立ちましたか?」
「えっ?う、うん。ありがとう。」
「それならよかったです。」
そう言って微笑む菊が妙に艶っぽく見えたのは、わたしがお湯の熱さに浮かれたせい?
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桜葉 - スノーデイさんの小説はどれも素敵ですね!これからも頑張ってください応援してます! (2017年10月28日 11時) (レス) id: e19bf62fb6 (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ショコラさん» ありがとうございます!これからもそう言っていただけるように頑張ります。 (2016年4月28日 14時) (レス) id: cb443af24c (このIDを非表示/違反報告)
ショコラ - スノーデイさんの小説はどれも素敵で読みやすいです!これからも応援しています!(*^_^*) (2016年4月26日 20時) (レス) id: 8dc6dca93f (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ルネさん» ありがとうございます。しかしわたしはまだまだなのでもっと読みやすい文章が書けるように努力します。 (2016年4月1日 23時) (レス) id: 34f11f5ff1 (このIDを非表示/違反報告)
ルネ - 文章全てが綺麗でわぁ青春だなぁと思えるようなものばかりで素敵です。 (2016年4月1日 20時) (レス) id: 97fe96e6af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スノーデイ | 作成日時:2016年3月10日 21時