土:「いじめの体験」 ページ17
わたしがまだ小学生だった頃、どこか暗く物悲しい雰囲気を持った用務員のおじさんがいた。
わたしはその用務員のおじさんが気になって、いつも後ろをついて回ったものだ。
ある時、そのおじさんと花壇の側の段差に腰を下ろしてゆっくり話す機会が一度だけあった。
そのおじさんの名前はサディク。日焼けした浅黒い肌や短く生えた髭、たくましくて大きな身体もよく覚えている。
「Aは俺についてきてよく飽きねえなァ。」
「うん!サディクさん大好きだもん!」
「ハハハッ…嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。そんなAにゃあ、一つ俺の昔話でもしてやらァ。耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ。」
わたしの小さな頭をぐしゃぐしゃ撫でたサディクさん。途端にその優しい目に切なさが浮かぶ。
「俺ァこれでも昔、大学に通ってたんだ。そこでジャズ研究会っつうサークルに入ったはいいが、そこで無視されるっつういじめに遭ったのよ。」
「サディクさん、いじめられてたの?」
「ああ。仲間との性が合わなかったのが原因なんだけどよ、それで居場所がなくなっちまってサークルを抜けたはいいが、自分が弱虫だって認めたくなかったんでェ。誰にも相談できなかったんだ。」
わたしたちを照らす太陽は暖かったのに、吹く風は冷たく感じた。
「それからすぐに大学を辞めたんでぃ。ジャズも辞めた。大学を辞めたのが不景気のどん底だった頃と重なっちまってバイトも見つけられなかったなァ。そして景気が良くなったら経験がねぇっていう理由でしばらくは働けなかった。社会全体からいじめられてる気分だったぜ、あの時はよぉ…。」
その瞳はわずかに潤んでいた。大きな声で笑っているのも、本当は悲しみを隠すために無理して笑い、そしてつらさは目に現れていたのだと初めて知った。
「Aにゃ難しい話かもしれねぇ。だけどいじめをするような人間にゃあなるんじゃねえぞ?いじめを受けてもくじけちゃならねえ。それはわかってくれるか…?」
わたしは何度も何度も大きく頷いた。
「よし。Aはいい子だなァ。本当にいい子だ…」
わたしを抱き寄せて、大きな手で幾度もポンポン撫でてくれた。顔は見えなかったけど、きっと嬉しそうな顔をしていたんだと思う。
もう小学校を卒業して何年も経つけれど、わたしはサディクさんの幸せを今も切に願っている。
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桜葉 - スノーデイさんの小説はどれも素敵ですね!これからも頑張ってください応援してます! (2017年10月28日 11時) (レス) id: e19bf62fb6 (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ショコラさん» ありがとうございます!これからもそう言っていただけるように頑張ります。 (2016年4月28日 14時) (レス) id: cb443af24c (このIDを非表示/違反報告)
ショコラ - スノーデイさんの小説はどれも素敵で読みやすいです!これからも応援しています!(*^_^*) (2016年4月26日 20時) (レス) id: 8dc6dca93f (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ルネさん» ありがとうございます。しかしわたしはまだまだなのでもっと読みやすい文章が書けるように努力します。 (2016年4月1日 23時) (レス) id: 34f11f5ff1 (このIDを非表示/違反報告)
ルネ - 文章全てが綺麗でわぁ青春だなぁと思えるようなものばかりで素敵です。 (2016年4月1日 20時) (レス) id: 97fe96e6af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スノーデイ | 作成日時:2016年3月10日 21時