立:「全力少女」 ページ13
「こんにちは。具合はどう?」
保健室のドアを開けて、わたしに笑顔を向けたのは同級生のトーリス。
わたしは体育大会で怪我した脚をスカートで隠すように身をよじらせた。
「大変だったね…こんなことになって。」
「保健室の先生と話したんだけど、しばらくは歩くことも立つこともままならないそうだよ。わたしがちゃんと注意しなかったのが悪いんだよ。」
あれは不慮の事故だった。
障害物競争で転んだ時に足をひねらせたのが悪かった。
わたしは運動系の部活に入っていたから、体育大会でも楽勝だと思い上がっていたのが今回のような結果を招いたのだろう。
もう、わたしはあの校庭を走れない。スタートラインに両手をつき、風を切って駆け抜けることもできなくなってしまった。
「とにかくお疲れ様。Aちゃんはよく頑張ったよ。Aちゃんは何事にも全力で取り組んでたからね。」
トーリスはそう言うと、スポーツドリンクとメモ用紙を置いて保健室から出て行った。
「何だろう?」
不思議に思って折りたたまれたメモ用紙を広げてみると、そこには美しく優しい文字。
“いつでも全力を注ぐAちゃんへ”
「トーリス…なんでこんなの……。」
さりげないトーリスの気遣いに、わたしはこれまでのことを思い出す。
この学校に入学してきて、何事にも全力で頑張って来た。勉強も必死になって取り組み、成績もそれなりだったし、部活動も休むことはなかった。委員会活動だって、何だって一生懸命になってやってきたのだ。
本当に、何もかもを、全力で。
でもたった一つだけ、全力を注がなかった。一つだけ真剣に向き合ってこなかったものがある。
「トーリス!待って!」
ズキリと痛む脚を引きずって保健室を出て生徒玄関へ行くと、トーリスが上靴を脱いで帰宅するところだった。
「Aちゃん、どうしたの?」
「あの、トーリスはわたしが今まで何事も全力でやってきたって言ってたじゃない?それは違うんだ。」
唯一わたしが力を注がなかったもの。
「わたし、トーリスにだけは面と向き合ってこなかった。話だっていつも適当に聞き流してきただけ。トーリスはずっとわたしに向き合ってくれてたのに。」
だから今はきちんと向き合う。
「ありがとう。」
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桜葉 - スノーデイさんの小説はどれも素敵ですね!これからも頑張ってください応援してます! (2017年10月28日 11時) (レス) id: e19bf62fb6 (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ショコラさん» ありがとうございます!これからもそう言っていただけるように頑張ります。 (2016年4月28日 14時) (レス) id: cb443af24c (このIDを非表示/違反報告)
ショコラ - スノーデイさんの小説はどれも素敵で読みやすいです!これからも応援しています!(*^_^*) (2016年4月26日 20時) (レス) id: 8dc6dca93f (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - ルネさん» ありがとうございます。しかしわたしはまだまだなのでもっと読みやすい文章が書けるように努力します。 (2016年4月1日 23時) (レス) id: 34f11f5ff1 (このIDを非表示/違反報告)
ルネ - 文章全てが綺麗でわぁ青春だなぁと思えるようなものばかりで素敵です。 (2016年4月1日 20時) (レス) id: 97fe96e6af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スノーデイ | 作成日時:2016年3月10日 21時