第23話「風と共に」 ページ25
初夏の熱を含んだ風が、緑豊かな木々を揺らす。
木漏れ日はわたしとアルフレッドに優しく降り注いで、何かを問いかけるようにゆらゆら揺れた。
「この穏やかに流れる時間のように時代の流れもゆるやかだったら、俺たちは何かを変えられたのかな?」
青空のようなアルフレッドのブルーの瞳は、遠くを見つめるように天を仰ぐ。
「きっと変えられたと思う。」
わたしは和菓子を切り崩す。
音も立てず、中のあんこが見えたところで竹串を刺し、それを何も言わずにアルフレッドの口元に運ぶ。
「何の真似だい?」
「アルフレッドはたくさんわたしと菊にひどいことをしてきた。」
時には助け合ったこともあったけど、何度も大戦が起こる度にわたしたちを巻き込んで世界を乱し、そして何より第二次世界大戦が終結するきっかけになった、あの2発の爆弾のことが未だに忘れられない。
「本当だったらこの竹串でアルフレッドの喉を突き刺してやるつもりだった。でもね…」
この時になってやっとわかった。
「アルフレッドは、いくらか罪悪感を持ってくれてるみたいだから許してあげる。」
恨み続けるのは疲れてしまう。
「この和菓子は仲直りの証。食べて?」
アルフレッドも黙って和菓子を口にする。
過去は変えられないし、事実も消えない。かと言って水に流すには重すぎる。それなら、許してあげたほうがいいじゃない。
「Aがそんなふうに言ってくれるなんて思わなかったんだぞ。」
「わたしはいつか言うつもりでいたけどね。かなり遅くなっちゃったけど、やっと言えてよかった。」
わたしたちの間に風が吹く。
それは互いに理解し合えなかった者たちの間に吹く和解の風。
そして新しいことを受け入れるための、異国の風が。
「俺は正義のために戦ってきたけど、なんか昔のことがバカみたいに思えてくるな。」
「それはわたしも同じだよ。」
「こんな真面目なことを考えるなんて、俺もおっさんになったのかな?」
「大人になったんだよ。」
正義に定義はないけれど、こんな穏やかな気持ちは、きっと数百年ぶり。
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スノーデイ(プロフ) - 私は日領こと露領(靴下)こと世界領((←さん» ありがとうございます。今は“まだ”ですがそのうちどうなるかと思うと怖いですよね。戦争を起こさないためにはどうしたら良いのかを考える切っ掛けになったのなら嬉しいです。コメントありがとうございました。 (2016年2月22日 21時) (レス) id: 34f11f5ff1 (このIDを非表示/違反報告)
私は日領こと露領(靴下)こと世界領((← - とても感動しました。戦争という事についてとても深く考えさせられる、とても素晴らしい作品でした。今は “ まだ ” 起きていない第三次世界対戦や第四次世界対戦、第五次世界対戦など、戦争について改めて一から考える切っ掛けとなりました。有り難うございました。 (2016年2月22日 20時) (レス) id: d4b1972073 (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - にゃん。さん» 閲覧ありがとうございます。でも全然素晴らしくなんかないですよ。考察とかけっこう曖昧なところがあるので。それでもこうして丁寧なコメントを下さって本当に嬉しいです。これからも頑張ります。 (2015年12月17日 19時) (レス) id: cb443af24c (このIDを非表示/違反報告)
にゃん。 - 小説、全て読ませていただきました。戦争という難しい、そして悲しいテーマでこれほどまで素晴らしい小説を書かれたことに非常に感動しました。それはもう思わず涙を流してしまうほどには。素敵な作品を本当にありがとうございました。これからも楽しみに待っています (2015年12月13日 14時) (レス) id: 3296dfbe0f (このIDを非表示/違反報告)
スノーデイ(プロフ) - あかいそらさん» コメントありがとうございます!これからも感動してもらえるような作品が書けるように頑張ります! (2015年5月9日 2時) (レス) id: 34f11f5ff1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:スノーデイ | 作成日時:2015年3月26日 23時