接近 ページ9
あの男の名は ”松本潤”といった。
彫刻のように整った容姿の持ち主は もちろん純粋な日本人で大野より三つ歳下であると 親切にもあの夜 ”相葉”という男が教えてくれた。
オラージュの総料理長になって3年と日は浅いものの ここまでの人気店に推しあげたのは 松本の実力あってのものだと自慢げに話していた。。
しかし…驚いた。
あのウエストジャパンからも声がかかっていたとは…
引き抜きに失敗した人材を このステイゴールドに連れてくることができたら さぞ悔しがることであろう…。
大野は 以前よりも増して松本潤という男が欲しくなった。
自分は あの”櫻井翔”を引っ張った実績があるのだ。
”今回も 必ず仕留めてみせる”
根拠の無い自信が大野を奮い立たせた。
とはいえ できることといえば… やはり閉店の時間を狙って毎晩のように待ち伏せするしか方法はなかった。
雨の日も風の日もたとえ無視され続けても 本人と直接コンタクトをとらなければ意味がない。
…というのが大野の基本姿勢だった。
「あっ 大野さ〜〜ん。お疲れ様で〜す」
嬉しそうにブンブンと手を振りながら業務を終えた相葉がこちらに近づいて来る。
何故だかわからないが 彼とはすっかり打ち解けてしまっていた。
「よく続きますね。疲れないですか？昼間 会社に行けてます？」
「これくらい余裕だ」
とは言ってはみたものの 正直 精神的疲労はかなりきていた。
毎日 二宮の目を盗むだけでも大変だというのに 松本に邪険にされたり無視されたりするのは大野にとってかなりのストレスとなっていた。
それに比べ櫻井のときは 確かに長い時間と労力を使ったが 一緒に食事をしたり酒を交わしたりしながらホテル経営の未来を語るなど 実に優美な時間を過ごしたものだった。
「松潤 もうすぐ出てくると思いますよ。 じゃ、 オレ先帰りますね。」
「えっ？…帰るのか…?!」
いつも松本との間を取り持ってくれる相葉がいないなんて…
「君がいてくれないと 困る！」
「…大野さん！」
相葉は突然 大野の両肩をガッシリつかむと真剣な眼差しを向け こう言い放った。
「松潤は素直じゃないから オレがいると言いたい事も言えないんです。…ということで今日は オレ消えるので あとは頑張って！じゃッ！」
とだけ言い残すと 固まっている大野をそのままに満足気にサッサと帰って行ってしまった。
残された大野は その場に立ち尽くす。
そして 一気に緊張が体を駆け巡った。
「じょ…上等だ…」
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作者名：hikari | 作成日時：2020年6月6日 4時
