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この男は確か…
まともに顔を見たことはなかったので一瞬戸惑ったが 間違いない。
あのクレーム男だ。
「なっ…何すか…」
ほぼ初対面の男がいきなり上から目線で話しかけてきたと思ったら 今度は人のかおをジッと覗き込んできた。
「…………君は 日本人か……？」
「ハァ?!」
「プッ！」
思いもよらぬ言葉に隣にいた相葉がたまらず吹き出してしまう。
「突然現れて 何だその言い草！ 」
「何がだ。 何か変なこと言ったか？」
男は彫りの深い どちらかと言うとエキゾチックな顔立ちをしていた。
絶対自分より年上だろうと思っていたのだが 大野の想像よりはるかに若く ガタイも良い。
何より その美しい顔立ちに大野は一瞬目を奪われてしまっていた。
「…要件はなんだ。さっさと言え」
「タメ口！…… お客さまなんだから」
相葉が横から小さな声でいさめる。
「構わん。 …オレは こういう者だ」
大野は胸元から慣れた手つきで自分の名刺を差し出した。
「大野ホールディングス…代表取締役社長…あの大野ホールディングス?! …ですか…？」
受け取る様子のない隣りの”料理長”の代わりに 相葉が横からそっと受け取る。
あのワンコちゃんがどこかの社長であることは知っていたが まさか こんな有名な大会社だったとは…
「単刀直入に言う。 ホテル[ステイゴールド]が うちの会社の系列なのは知っているだろ？ 実は…うちのホテルも 新たに事業を拡大していこうと思っているのだが… ぜひ君のその力を…」
「断る」
「はっ 話は最後まで聴け!?」
「興味もないし 聴く気もない。時間のムダ。
相葉 オレ 先行くから」
そう告げると 大野の横をスルリと通り抜けスタスタと行ってしまう。
「ちょ…待て！話はまだ…」
「しゃっ 社長さん すいません！今の状態の彼に何を言っても本当にムダなんです！今日のところはお引き取りください！」
相葉は 追いかけようとする大野の腕を引っ張り どうにか場を収めようとした。
「どういう状態ならいいんだ！」
「…正直言うと…そう言う 引き抜き話には 耳を貸さないと思いますよ… 以前も他のホテルからそういったお話を頂いていたんですが 門前払い状態で…」
「他のホテル……って…どっ…どこのホテルだ？」
「確か…ウエスト…ジャパンだったと思いますけど…」
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作者名：hikari | 作成日時：2020年6月6日 4時
