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オフィス街にほど近い広場の一角にその店はあった。
全面ガラス張りから放たれるその光は 薄暗くなった街を暖かく照らしている。
カジュアルダイニングレストランorage(オラージュ)
いつも通る道なのだが こんな店があることを大野は今まで知らなかった。
店内に入ると 夕食時なこともあり 会社帰りのサラリーマンや女性客が多く集っていた。
窓際の席に通されると すかさずメニュー表を開いた。
…確かにリーズナブルだな…
大野は グラスワインと肉料理を一品注文した。
問題は 味だ。
この価格で 本格的な味がどこまで出せているのか。
「お待たせしました」
程なくして出されたその料理の盛り付けに大野は感心する。
美しいというより 食欲をそそる そんな表現が合う。
ひとたびナイフを通すと その絶妙な焼き加減にまた驚く。
「…うまい…」
味も申し分なかった。あの価格でこのうまさ…
味見程度のつもりで入った店だったのに いつしか大野は夢中でたいらげていた。
「…うまかった…」
見つけたかもしれない。
櫻井とであった時のような…いや それ以上のなんとも言えない感覚が大野の中で駆け巡った。
会いたい。
ぜひうちに欲しい。
いてもたってもいられなくなった大野は 近くを通りかかったウエイトレスに声をかけた。
「おい 今すぐここの料理長を呼んでくれ」
「…あっ…あの 何か不手際でも…」
突然の申し出に ウエイトレスの顔色が変わる。
「いいから 話があると伝えてくれ」
「しょ…少々 お待ちください！」
ウエイトレスは そう言うと小走りで奥へと入っていった。
しばらくすると ウエイトレスに連れられて厨房から長身の男がこちらに向かってやってきた。
「本日は ご来店くださいまして有難うございます…あの 何か料理に不手際がございましたでしょうか…」
その男の胸元にはローマ字で”AIBA”と刺繍されていた。
「君がこの店の料理長なのか？」
「いえ…その そうではないんですが…この時間帯は 厨房も大変忙しく 料理長も手を離せないとのことで…代わりに私が…」
「それでは意味が無い！私は 料理長に話があるんだ！ここに呼びたまえ！」
「あの…お客さま…」
「社長！お時間です！車にお戻りください」
突然の聞き覚えのある声。
振り向くと そこには帰したはずの二宮と城島が立っていた。
「社長 失礼しますよ」
「おい！オレはまだ用が…！」
城島は 大野の両脇に手を入れ そのまま強引に店の外へと連れ出して行った。
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作者名：hikari | 作成日時：2020年6月6日 4時
