甘い時間 ページ34
心配なのは ”大野の貞操”
”レンアイ”を知らない彼は ただ恋に恋をしているだけなのだ。
身も心もボロボロにされる前に どうにかしてその事に気づいて欲しい。
櫻井には そんなに心配なら二人の付き合いを全面的に止めればいいのにと言われたが そんなことをして また腑抜けの状態に戻られても困る。
まぁ 大野が体の関係を拒むことができたとしても 松本の方が信用ならないことに変わりないが…
「社長曰く お相手の彼も ”焦ることはない”と言っていたようだし そんなに心配しなくてもいいんじゃないですか？」
『…あとはコチラで何とかしますから…櫻井さんも 酔われているようですし お気をつけてお帰りください…失礼します』
無情にもあっさりと電話を切られてしまう。
「つれないなぁ…」
”まぁ 今はまだ二宮さんの駒のひとつでも構いませんよ…”
櫻井は全ての侵入を拒むような表情の二宮を思い浮かべながら静かにほくそ笑んだ。
午前中 不自然に詰め込まれたスケジュールを淡々とこなす大野は鬼気迫るものがあった。
まるで昔の大野を見ているようだ。
”松本”がそうさせていると考えると 二宮は少し複雑な思いがした。
だいたい男と会いたいがために決まっていた仕事の予定を動かすなんて公私混同 職権乱用も甚だしい。
チラリと盗み見た当の本人は おぼつかない仕草で嬉しそうにメールを打っている。
「…もうすぐ仕事上がれそう…」
二宮がボソリと呟くと 大野は驚いたような顔を向けた。
「ニノ…なんでわかった…？」
「午後どなたかと会われるんでしょ。適当に言っただけです」
「なっ…なんだ…脅かすな」
「松本潤…」
今度はわかりやすくスマホを床に落とした。
「…じゃないことを祈ります」
そう言い残すと 固まったままの大野をそのままに 社長室を出ていった。
机の上でブーブーという音とともに踊り出す携帯に 我に返る。
慌てて見ると松本からの返信だった。
「潤くん…」
愛おしそうに松本の名前を呟きながらメールを開くと 待ち合わせ場所の時間と場所が記載されていた。
しかも 可愛らしいイラストのスタンプまでつけて…
もうそれだけで溶けそうになる大野。
いまだかつて自分のこの携帯がこんなに彩ったことがあるだろうか…
人を好きになるということは こんなにも甘く甘美なものなのか…
まだ本人と会ってもいないのに大野は完全に熱に浮かされていた。
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作者名：hikari | 作成日時：2020年6月6日 4時
