どうやら社長解放されたようです (ページ27)

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線と線ページ27

ひと月ぶりの懐かしい声…
顔を上げるとそこには焦がれてやまなかった松本の姿があった。

「…松本くん…」

大野の突然の訪問に驚いているのか大きな瞳を最大限に見開いて固まっている。

「…こ…こんばんは…」

大野の間の抜けた挨拶に我に返った松本。

「…久しぶり…」

そう言った松本の目が少し和らいだ。
”今度は家に押しかけて来たのか”と文句のひとつも言われるだろうと覚悟していたのだが…
大野の緊張が少しだけ解けた。

「…痩せた…?」

「…えっ…？そっ…そうか…?」

そう言われて大野は思わず頬を大袈裟に擦る仕草をする。
確かに食事もいい加減にとっていたかもしれない。

「…オレに会いに来てくれたんだ…?」

「まぁ…そういう…こと…だな…」

松本が思いもかけず優しい眼差しで見つめるので気恥ずかしくなりぶっきらぼうに答えた。

そこからしばしの沈黙がうまれる。
次の行動に正解を見いだせない二人は向かい合ったまま何となくその場に立ち尽くす。

ウイーンと音をたてて開いた自動ドアからマンションの住人が出てくるのを合図に松本が口を開いた。

「…よかったら上がってく…？」

セキュリティもしっかり管理されており男の一人暮らしにしては大きくて立派なマンションであった。
時折ドアの前にベビーカーが置かれているのを見るとやはりファミリー向けのマンションであると理解する。

松本の部屋は 10階の角部屋だった。
突然の訪問でも全く問題がないくらいキレイに整理整頓された部屋は松本の性質を表しているようだ。
ただ…何となく無機質で寂しい感じがするのは物が少ないからだろうか…。

「オーナーが用意してくれたマンションなんだ。広い割になんもないだろ…ほとんど寝に帰るだけだからな…」

飲み物を差し出しながら大野の違和感を悟ったようにそう言った。

「いいマンションだな…」

「ハハ…大野さんに言われてもね」

松本は大野のケタ違いの部屋を思い浮かべならが苦笑いをする。

正直大野をこの部屋にあげていいものか迷った。
多分あの夜以降純粋な彼は自分に起こった出来ごとに相当悩んだに違いない。
どうしていいかわからずココにたどり着いたということは何となく想像できる。
軽率に部屋へ来いなんて言っていいのだろうか…と思ったのだが…
何の警戒心もなくノコノコと着いてきた彼を見て松本の方か罪悪感を感じていた。