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朝 二宮からのコールで飛び起きた。
珍しく寝坊をしてしまったようだ。
そんな大野を不審に思ったのか 身支度を手伝おうと部屋まで上がってこようとする二宮を制し 急いでリビングに行くと そこには既に松本の姿はなかった。
特に書き置きもなく 松本がいたという痕跡は キレイにたたまれた毛布以外に見当たらない。
大野は内心ホッと胸をなでおろしていた。
正直どんな顔をして会えばいいかわからなかったから。
それと同時に 次はいつ会えるのだろうかという 得体の知れない不安感が込み上げてきた。
「社長 おはようございます。」
「おう…」
大野は二宮の顔を一切見ることなく 城島がドアを開けて待つクルマの後部座席に乗り込んだ。
「顔色が優れないようですが…どこか具合でも…」
「なんでもない ただの寝不足だ」
「何をされていらっしゃったのですか？」
「えッ 何をって…」
大野の脳裏に 昨夜の出来事がコマ撮りの映像のようにフラッシュバックする。
二宮に顔が赤くなるのを見られないようにとっさに窓の景色を見る素振りをしてはみるが その動揺は筒抜けだった。
大野はいつものように得意ではないブラックコーヒーを片手に 最上階のあの窓から地上を眺めていた。
相変わらず景色はいいし コーヒーは苦い。
ただ……一つだけ違ったことといえば 昨日まで見下すように眺めていた地上の世界に少しだけ憧れを抱くようになったことだろうか…。
何だか キラキラとして とても眩しい…。
たった一晩を超えただけなのに 昨日と今日では世界が違って見えた。
理由はわかっている。
あのごちゃごちゃした地上のどこかに あの男がいるからだ。
その事実が 大野の胸の鼓動を速くさせた。
”いったい何なんだ…オレ どうしちゃったんだ…？”
得体の知れない切ない思いに今日 何度目かのため息をつく。
これではまるで… まるで…
「…まるで 恋する乙女みたいですよ」
「!?」
自分の心の声がサウンド化されたことに驚き 首がもげそうな勢いで振り向いた。
「ニノノノノッ…ノックをしろ！！」
「しました」
「……あっそう…」
「朝から 青くなったり 赤くなったり ため息をついたり…
それは あの店に通っていることと関係があるんでしょうか？」
「…関係なんか あっあるわけないだろう…」
平静を装いながらも 空のコーヒーカップを何度も口元に運んでいる。
「そうですか…では 今日限り もうあの店に行くのはやめてください」
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作者名：hikari | 作成日時：2020年6月6日 4時
