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「…あ〜…あれだ…その…オレ そういう偏見ないから…」
「…え？」
珍しく松本がしどろもどろに話し始めた。
最初なんのことだかわからなかったが すぐに先程の自分の発言に対してのフォローなのだと気づいた。
「…ああ…別に いいんだ…本当のことだし…好きな人ができたところで どうせ親の決めた人としか結婚できないし……」
「…今どきそんなことあんのか？」
松本の整った眉が密かに歪んだ。
「ウチは 昔からそうだ。オレが口出しできるのは仕事のことだけ…」
少し酔いがまわっているのか 大野の目じりがトロンと下がり 瞬きが多くなる。
「この部屋にある家具も 着てる服もスーツも オレのチョイスしたもんなんてひとつもない。髪だって親の息のかかった理容師が切ってくれてる。」
ああ…なんでこんなことこの男に話しているのだろう…
せっかく”あの松本”とゆっくり話す時間をもてたというのに こんなどうでもいい話をするなんて…
大野は向かい側の席で 脚を組みながら飲みかけのグラスを手首でユラユラまわしている松本を見つめていた。
どんな所作も絵になる。
こんな美しい男を 厨房に隠してしまうなんて勿体ない。
自分なら絶対にオープンキッチンに立たせて彼が作り出す様々な料理の過程から客に楽しんでもらうのに…。
でもそんなことをしたら夜景の見える席よりも 厨房がよく見えるカウンター席に人が集中してしまうかな…。
先程キッパリ断られたと思うと それも虚しい想像だった。
「…大野さんが それでいいならいいけどさ…何か 聞いてるだけでこっちが息苦しい」
「…別に悪いことばかりじゃない…煩わしいことがない分 仕事に集中できるし…」
「そうか？…集中しすぎてワンマンになってんじゃねぇの？」
松本は時おり歯に衣着せぬもの言いをする。
でもその一言 一言がとても的確なので相手は何も言えなくなるのだ。
「…君にわかってもらおうなんて思ってない。どうせ……どうせオレたちは交わることなんかないんだろ…」
松本に言われた言葉をそのまま返す。
自分で言ってそしてまた落ち込んだ。
「アレ？ オレ そんなことを言った？」
松本は何だか楽しそうに ニヤリと不敵な笑いを浮かべた。
大野は何か言い返してやりたい衝動にかられるが 酔いのまわりが早いのか頭がよく働かない。
歳下のくせに余裕のある素振りが 大野は気に入らなかった。
「…大野さん…酔うとカワイイね…」
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作者名：hikari | 作成日時：2020年6月6日 4時
